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牧村朝子が読む『星月夜』李琴峰
まさに文芸。印字された全ての文字に、
読もうとしてこそ読み解ける
魔法がかかっていました。

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「私」に閉じ込められてたまるか

「青春と読書」なんてタイトルの読書情報誌を読んでいらっしゃる。あなたはきっと、とってもとっても、読書がお好きなのでしょう。
 それでは、読書の何が好きなのか。理由は十人十色でしょうね。私が読書を好きな理由は、一つ、家の中からでも世界が広がるから。そしてもう一つは、日常の言葉疲れを言葉でほぐしてもらえるから……学校で教えられた「正しい国語」、社会を回す「わかりやすい言葉」の、その外側にだってことは飛んでいけるんだっていう風を感じられるからです。
 これら、どちらの喜びもある。李琴峰著、『星月夜』。まさに文芸。印字された全ての文字に、読もうとしてこそ読み解ける魔法がかかっていました。少し覗いてみましょうか。「つかえないつかえない」(p.46)。ひらがなにひらがなでルビ。「ヤムグルの日は特別だった」(p.11)。えっ、そんな読み方教えられちゃあ読後に続くリアル人生での雨の日まで特別になっちゃうじゃん。p.114のとある単語に振られたルビまでしっかり読んで気づいた時のしびれる快感。章と章の間に浮かぶ、☆マーク、☾マークの意味がわかる瞬間……。
 読む前は知らなかったことだらけ。大盘鸡ダーバンジー民考汉ミンカウハン。キブラコンパス。読む前にキンと冷やした板チョコを用意しておくといいと思う、たぶん史上最高の感情爆発嚙み砕き体験ができます。
 李琴峰さんご本人は、「これは台湾人レズビアンが実体験をもとに書いた私小説でしょ?」扱いに抗う人なんだなって私は思ってます。「女が、外国人が、LGBTが書いた小説」。ド真ん中にドカンと座ってそこから動かないし動けない権威が、李さんを、そして作品を枠にはめてきました。その都度、李さんは言い返すんです。人間がお高いお文壇を設置して壇上に立つ前の、始まりの野で、原で、真正面から相手を見据えるんです。
 嚙み砕いた板チョコがとんがって熱い舌で溶けたような、この小説は、型から溶け出る熱そのものです。それをまた言葉として固めたなら、こんな一文になるでしょうか――

「私」に閉じ込められてたまるか。

牧村朝子

まきむら・あさこ●タレント、文筆家

星月夜ほしつきよる

李琴峰 著

発売中・単行本

本体1,500円+税

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