[本を読む]
「私」に閉じ込められてたまるか
「青春と読書」なんてタイトルの読書情報誌を読んでいらっしゃる。あなたはきっと、とってもとっても、読書がお好きなのでしょう。
それでは、読書の何が好きなのか。理由は十人十色でしょうね。私が読書を好きな理由は、一つ、家の中からでも世界が広がるから。そしてもう一つは、日常の言葉疲れを言葉でほぐしてもらえるから……学校で教えられた「正しい国語」、社会を回す「わかりやすい言葉」の、その外側にだって
これら、どちらの喜びもある。李琴峰著、『星月夜』。まさに文芸。印字された全ての文字に、読もうとしてこそ読み解ける魔法がかかっていました。少し覗いてみましょうか。「
読む前は知らなかったことだらけ。
李琴峰さんご本人は、「これは台湾人レズビアンが実体験をもとに書いた私小説でしょ?」扱いに抗う人なんだなって私は思ってます。「女が、外国人が、LGBTが書いた小説」。ド真ん中にドカンと座ってそこから動かないし動けない権威が、李さんを、そして作品を枠にはめてきました。その都度、李さんは言い返すんです。人間がお高いお文壇を設置して壇上に立つ前の、始まりの野で、原で、真正面から相手を見据えるんです。
嚙み砕いた板チョコがとんがって熱い舌で溶けたような、この小説は、型から溶け出る熱そのものです。それをまた言葉として固めたなら、こんな一文になるでしょうか――
「私」に閉じ込められてたまるか。
牧村朝子
まきむら・あさこ●タレント、文筆家