[今月のエッセイ]
漫画と小説の間
(どうしよう、ものすごく好きな作品に出会ってしまった……!)
という時の癖なのですが、それが出てしまう程、衝撃的でした。
ああ、この美しい物語をリアルタイムで読み進めていけるなんて、なんという
この度、出版された『風の道しるべ』はシリーズ三作目になります。
前作『片羽の蝶』では、幼き日の
原作コミックス第十九巻に描かれた実弥の回想シーンを元にしたお話です。
胡蝶姉妹のエピソード同様、大変、デリケートな部分の為、担当さんとも悩みに悩んだ末、「ダメ元で、企画だけでも出してみましょう!」と半ば神頼みのような気持ちで吾峠先生にお伺いしたところ、なんと、ご承諾いただけました。私も担当さんもそれはそれは大喜びで「これは、絶対、メインに据えましょう。ページ数も多めでいきましょう」ということになり、今までで一番長い話になりました。分量としては、やや短めの中編ぐらいでしょうか。
それだけにプレッシャーも半端なく、十分に構想を練った上で、全五話中、最後に書き始めました。
我流の方法で鬼を狩る少年時代の実弥が匡近と出会い、鬼殺隊に入隊、紆余曲折ありながらも実の兄弟のように仲良くなり、任務で
先生からも暗くなり過ぎないように、とのご心配をいただいており、それを常に念頭に置き、とりわけ重くなりがちな中盤以降のシーンは何度も書き直しました。
その際に、有難くも吾峠先生より実弥の台詞を幾つか賜り、作中に使わせていただきました。どれも素晴らしく格好良いのですが、その中でも私が大好きなのが、
――俺は自分が可哀想だと思ったことはねえ。
という言葉で、今、こうして書いていても、胸に込み上げてくるものがあります。
実弥の生い立ちや生き様を知っているからこそ、余計に胸に突き刺さりました。
自らを
だからこそ、どんなに残酷で痛ましい場面であっても、そこに切ないまでのぬくもりと明確な救いとを感じることができる……。
それだけに、本作『風の道しるべ』においても、読者の皆様にそういったぬくもりや救いを感じていただけるよう全身全霊で努めました。
表題作以外にも、
中でも「明日の約束」は、ラストが同時発売のコミックス第二十一巻とほんのり繫がっているので、是非とも、ご一読下さい。
最後になりましたが、ノベライズ作家というのはあくまで
吾峠先生が大切に作り上げられ、多くの方々が愛してやまない『鬼滅の刃』という世界を決して壊すことなく小説化する――それが本作に込めた私の願いです。
矢島 綾
やじま・あや●作家。
『神の御名の果てに…』で第16回ジャンプ小説大賞佳作受賞。『天空をわたる花 東国呼子弔忌談―過去を呼ぶ瞳―』でデビュー。『鬼滅の刃』や『青の祓魔師』、『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』のノベライズなどを手がけ幅広く活躍中。