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沖縄初の芥川賞作家・大城立裕の青春私小説を読む
森本浩平(ジュンク堂書店那覇店店長)

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文学こそが人間教育

 戦前から独自の出版文化が根付き、多くの県産の書籍が発行され続ける出版王国・沖縄。その沖縄出版界を半世紀以上ものあいだ、常に先頭で牽引してきた作家・大城立裕。沖縄では知らない人はいない、沖縄初の芥川賞作家である。御年94歳になるが、今なお精力的に書き続けている。
 本作は大城氏自身がこれまでの人生の中でもっとも輝いていたと語る、1948年、22歳に宜野湾村野嵩ぎのわんそんのだけ高校の国語教師となってからの2年間を綴った青春自伝小説。のちに『カクテル・パーティー』で芥川賞を受賞する大城氏の、作家人生の礎ともなったのであろう、文学を通じて心を通わせた生徒たちとの交流が描かれる。
 多くの生徒たちに思いを馳せ、個々の人物像も交えながら、授業、家庭訪問、学芸会などの学校生活が回想されていく。
 実際の授業の中で使われた教え子たちのいくつかの作文が、そのまま文中にちりばめられた場面もある。それは県立図書館に大城氏より寄贈され、現在も「大城立裕文庫」として残されている貴重なもので、当時の情景をリアルに映し出す。
 学芸会では生徒たちと演劇に取り組み、自らが文芸作品を戯曲にする。その作品は石坂洋次郎の当時のベストセラー『青い山脈』。この戯曲がのちに新聞社主催のコンクールに出品され一等にもなる。またもう一つの作品、大城氏が半年間暮らした熊本市の闇市場が舞台の『望郷』は、疎開者たちの沖縄が描かれる。遠い故郷沖縄を思い暮らす沖縄人同士の絆。それは現在も変わらない。
 敗戦直後の焼け跡に建つ校舎を舞台にした物語だが、そこには暗然たるものはない。生徒たちは実に朗らかで、快活とした様子が伝わってくる。そこには大城氏が戦中派の一人として、若者には悔しい思いをさせまいとの情念が強くあったに違いない。
 70年以上前の終戦直後の沖縄が、大城氏の記憶から見事に精細に描かれた本作は、当時の沖縄を知ることができる貴重な作品とされるであろう。文学離れが進んでいく昨今、文学こそが人間教育として大事なものだという大城氏のメッセージを読み取り、本作から多くを学ぶほかない。

森本浩平

もりもと・こうへい● ジュンク堂書店那覇店店長

『焼け跡の高校教師』

大城立裕 著

発売中・集英社文庫

本体500円+税

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