[本を読む]
愛すべき同期とのステキな友情物語
『同期の桜』という軍歌がある。3年前に亡くなった父は、同じときに兵役についた仲間を殊の外大事にしており、90歳になるまで毎年の同期会には必ず参加しこの歌を歌っていた。
「同期」である、ということはそれだけで強い「仲間」という意識ができるのだろう。新入社員は誰しも不安だ。社会に漕ぎだすとき、たまたま同じ船に乗って、同じ方向を目指したことで強い絆ができ、連帯する。
『愉快な青春が最高の復讐!』では、私の大好きな作家、奥田亜希子はどのように作られたのか、が
人づきあいが苦手で「私の人間性は青春に向いていなかった」と断言していた奥田は、高校2年で「安定のために長く勤められそうなところに就職して、なるべく早くワンルームのマンションを買おう」と決めていた。
でもその半年後には遠距離恋愛の恋人ができ(後に結婚)、地元の大学に進学した後、恋人の家の近くに就職先を見つけた。順風満帆な日々ではないか、と思うのだが、本当の青春はそこからだった。同期との出会いだ。
50人ほどの小さな会社に新卒で就職した女子社員は6人。最初こそ仲良くなれない予感があったが、新人研修で警戒心は薄れた。そこから親密になるまでは怒濤の勢いだ。
お互いに気を使い合い、それでいて程よい距離を置いて仲良く遊ぶ。できそうでできない人間関係を、このとき上手く築いたと思う。バカバカしいイベントも、過激なパフォーマンスも同期となら楽しい。読みながら私の頰はゆるゆるに緩んでいた。
奥田亜希子の小説には、いつもどこか
彼女の手元には膨大な日記や記録が残っているという。普通なのにちょっとずれている愛すべき変人たちはこれからもどんどん登場しそうだ。次の小説がさらに楽しみになった。
東えりか
あづま・えりか● 書評家