美味しいものを伝える技は難しい。例えば写真なら、それを撮るだけでは不十分で、湯気や照り、霧吹きやライティング等を駆使して、より一層美味しそうに見える技を盛る。テレビのグルメ番組なら、それを映すだけでなく、それを食す人々のコメントや表情で伝える。たまに、眉間にシワを寄せて全力で伝えようとしているのに、そのシワが裏目に出て、「不味い」になってしまっている顔を見かけたりすることも少なくない。そんな時、美味しいものとそうでもないものの表現は紙一重なんだなと思ってしまう。正直、そういった伝達ツールの中でも『イラスト』は、それらの次くらいの位置付けだった。
本書は、月刊漫画誌「ココハナ」にて、「うち旅」と題して連載された、イラストレーターたかはしみきさんのモノクロイラストエッセイを、カラーで塗り直し、お取り寄せに必要な諸情報をシンプルに添えた、一言で言えば、親切設計のお取り寄せ案内書だ。最初は、美味しそう!どれをお取り寄せしようかな? と、チェックを入れる作業をしていたはずが、いつの間にか、脂が滴りそうな肉の断面を、パイ皮の香ばしそうなお焦げを、リアルよりも美味しそうと食い入るように見ていた。品々のイラストがとにかく絶品。技術的な巧さもさることながら、もう少し違うことが浮かんできた。著者がイラストに使う画材は、フェルトペンのような物なのだが、これは、塗り込めば塗り込むほど、本来の色が出てくる。その作業を想像するだけで気が遠くなりそうだが、見入っていると、同じ箇所を何度も何度も塗り込みながら、たかはしさんが「美味しくなれ」「美味しくなれ」と言っている声が滲み出てくるような気さえした。これは、お取り寄せ案内書である以上に、イラスト本としても大いに楽しめる美味しい本だ。