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インタビュー/本文を読む

楽しく賑やかなイメージで! 「イエロー・サブマリン 東京バンドワゴン」
小路幸也インタビュー

[インタビュー]

人ってずっと自分の居場所を
探し続けているんですよね

小路幸也さんの「東京バンドワゴンシリーズ」の新刊が出る季節が到来! 東京下町の老舗古書店〈東京とうきようバンドワゴン〉を営む大家族・堀田ほつた家を描いた本シリーズ。最新第15弾のタイトルは『イエロー・サブマリン』。お馴染みのビートルズの曲名ですが、今回はタイトルを聞いただけで、元気が出そうな予感が――。
前作の『アンド・アイ・ラブ・ハー』は、我南人がなと(家長・勘一かんいちの息子で伝説のロッカー)のバンド仲間ボンさんの死や、家族同然のかずみさんが老人ホームに入る決断をするなど、避けては通れない人生の陰の部分をテーマに据えて、しっとりと読ませる展開でした。今回は、それが一転。『イエロー・サブマリン』の曲調通り、いつも以上に明るく賑やかに、堀田家の人々のLOVEなおせっかいぶりが本領を発揮します。もちろん、お約束のトラブルや本にまつわる事件も勃発。今作では堀田家の意外な人物がキーパーソンとなりますが、それは読んでからのお楽しみ。
まだまだ続くこの人気シリーズの最新作に託した思いを、小路さんにうかがいました。

聞き手・構成=宮内千和子/撮影=三山エリ

タイトルに込めた僕らの「家」

─ 前作『アンド・アイ・ラブ・ハー』は、生老病死しようろうびようしなど、人生を考えさせるけっこう重いテーマでしたが、今回は一転して明るい堀田家のムードが帰ってきた感じですね。

 そうなんです。我南人のバンド仲間のボンさんが亡くなったりとか、ここのところ湿っぽい話が続いていたので、ちょっとここらで賑やかにいきたいなと考えていたら、あ、そういえば、この「イエロー・サブマリン」をまだ使ってないなと思いつきまして。
 実はこの曲、明るすぎてちょっと使いにくいなと思っていたんです。でも、これまで少し続いた湿っぽい雰囲気を吹き飛ばすにはぴったりだと思って、採用することにしたんです。

─ 「イエロー・サブマリン」は、ビートルズが主人公のアニメ映画(1968年公開)のテーマ曲でもありますよね。映画のストーリーをみると、今回のエピソードに通じる痛快活劇もありました。

 ええ、それはそうなんですが、でも、「東京バンドワゴン」の読者でそんな古いアニメ映画を見ている人はまずいない(笑)。
 それより、かつてその昔、日本においてはビートルズのこの曲をアレンジした「イエロー・サブマリン音頭」というのがありまして。

─ 年がバレますが、知ってます(笑)。金沢明子さんのあの民謡調の……。

 そうそう、あのめっちゃ明るく元気なやつ。その楽しい賑やかしのイメージで今回は行こうと考えまして、全編いつも以上に活気あふれる感じにしました。

─ 確かに登場人物も多く、賑やかですね。全エピソードに通底する具体的なテーマとしては、どういうことが念頭にありましたか。

 うん、今回のキーワードは「家」ですね。『イエロー・サブマリン』の歌詞を聞いてもらうとわかりますが、僕らはこの黄色い潜水艦の国で暮らしている、ここが僕らの家なんだっていう、すごく象徴的な歌詞なんです。おそらくこの歌詞には、いろんな意味合いが込められていると思うんです。
 それで、改めて家って何だろうな、どういう存在なんだろうなと考えまして。じゃあ、その家というものをキーワードに今回は書いてみようと方向が決まったんです。ですから、今回はかなり意識して、家というものをいろいろな形で書いているんですよ。

─ そういえば、最初に登場するのも大正時代の古いお屋敷にまつわるエピソードです。

 そう、読者に家というものを意識してもらうために最初に象徴的なお屋敷を出したんです。そのあとも家につながっていく話をぽんぽん出して、最終話の夫と暮らした思い出深い家を出て老人ホームに行くという話で締めくくる。ですから今回のエピソードには全て家というくくりがあるんです。そういうテーマ構成になっています。
 いつも春夏秋冬四編の枠で二本くらいずつエピソードを入れているんですが、今回は基本的に各編一本ずつに絞って全体的に一本すうっと線が通るようにテンポアップして書いたので、そのテンポの良さは楽しんでいただけるかなと思っています。

風通しのいい自分の居場所

─ 今回の作品を読むと、「家」には、いいにつけ悪いにつけ、人の思いが凝縮されているということがひしひしと伝わってきます。小路さんご自身は、家というものをどうとらえていますか?

 うーん、何でしょうね。家は、そこにいれば安心するだろうし、逆に縛られる部分もある。僕個人としては、前からいろんなところで表明しているように、家にはあまり執着しないタイプです。でも人間って、結局、ある家に育って、大人になってそこを出ていって、またその出ていった先で今度は自分の家をつくるっていう作業をしているわけですよね。
 自分の家ができ上がったら、そこに新しい家族ができて、そこから出て行った家族がまた新しい家をつくる。というように人生にはずっと家というものが関わってくる。それはたぶん、自分の居場所をつくるということなんです。家をつくるというのは、建物だけでなく、自分の拠りどころ、自分の居場所をつくる、見つけるということなんですよね。
 今回の物語では、いろんな人がいろんな思いを抱えて、家=自分の居場所というものを考えている。誰にどう共感するかは、読んでくれた方がそれぞれ感じてくれればいいなと思っています。

─ なるほど。その意味でいえば、堀田家は、家訓はあちこちに張られているものの、風通しのいい居場所という感じがします。

 そうですよ。下町で長いこと〈東京バンドワゴン〉という古書店をやっている堀田家は、すごく風通しがいいし、ある意味では理想的な家、居場所ですね。そんな家はもう存在しないかもしれない。けれど、僕は書き手として、みんながつどえるこんな家があったらいいなという理想の居場所というものをずっと守って書いてきている。だから今回もみんなが集まってきて、物語が紡ぎだされていくんです。

増える登場人物に世代交代の波!?

─ 子どもだった研人けんと花陽かよ(ともに我南人の孫)が大人になって、その存在感が増すにつれて、恋人や友達などの人間関係もどんどん増えて、登場人物が多くなっています。そのあたりの交通整理が大変そうな気がしますが。

 それについては、これからけっこう悩むと思います。何しろ、研人や花陽など若い人のエピソードを書こうとすると、どうしても外へ外へと向かってしまう。そうすると、どんどん〈東京バンドワゴン〉の中の話が減っていくと思うんですよ。そこはちょっとうまくバランスとっていかないとまずいなとは考えています。

─ 若い人はみんな外志向ですよね。

 ええ。まだ具体的には何も考えてないんですけど、幸い花陽はまだしばらくの間大学生でずっと家にいるので、花陽が〈東京バンドワゴン〉のほうをしっかりと担当して、研人は音楽活動で外に出て、外のほうのエピソードを担当するという役割になっていくのかなと考えたりはしています。

あお(我南人の次男)のお嫁さんのすずみさんも本が大好きでしっかりとしているし、そろそろ〈東京バンドワゴン〉にも世代交代の波が来そうですか。

 そうですね。すずみさんが〈東京バンドワゴン〉を継ぐ可能性も……いや、でも、今年で米寿を迎える勘一御大おんたいはまだまだ心身ともにかくしゃくとしているし、ハートも熱い。何といってもこのシリーズの主人公ですから、そう簡単に引退はさせません。
 勘一が死ぬときがこの物語の終わるときだなと思っているんですが、もしもですよ、勘一が亡くなってあの帳場にだれが座るのかなと考えると、じつは我南人しかいないような気がしているんです。

─ それは似合いますね。いつも不機嫌そうに帳場の文机で本を読みながら煙草をふかしている勘一さんも絵になりますが、金髪の我南人が帳場でカブいてる感じも、捨てがたい。

 そうでしょう。我南人自身もあそこに座りたいのかなーって最近考えたりしているんです。これはもう作者であっても僕がどうこうできることではないし、いわば登場人物たちが勝手に物語を作っていっているという感じなので。ただ、今後の展開として、勘一が奥に引っ込んで、我南人が帳場に座る日が来るかもしれない。勘一が奥に引っ込むといっても居間ですけど、そこで日がな一日、本を読んでいて、さあ事件というときには御大お出ましとか(笑)。

─ その展開もいいですね。世代交代といえば、今作品では今までわりと地味だったこん(我南人の長男)がクローズアップされたのが印象的でした。

 そうそう。研人たち若者のエピソードが増えているので、ミドルエイジの紺たちにも頑張ってもらわんとと思って、今回は全面的に紺を押し出しました。

─ 紺さん、物書きとしてもちょっと名前が知られて、著作にも重版がかかったという……。

 うん、あれはね、本編には書いてないけれど、初版六千部、重版が二千部かかって全部で八千部という感じかな(笑)。そういうこともあって、物書きとしての自信もちょっとついてきた。今まであまり目立ちませんでしたが、じつは我南人や青や研人など、目立つキャラの裏で堀田家を静かに仕切っているのは、紺なんですよ。

─ その紺に今回は災難が降りかかる。あろうことか盗作の疑いがかけられ、それを解決すべく、クレームをつけた相手の家に我南人と一緒に乗り込むなど、いつも物静かな紺がけっこう熱い面を見せますね。

 うん、紺もそういう熱い部分を持った堀田家の一員なのだということをちゃんと書きたかった。ただ静かで知的なキャラというだけでなく、今回はきちんと紺の立ち位置というのを表明したいと思ったんですよね。その意味では、これからミドルエイジ組になりつつある青やすずみの立ち位置もしっかり書いていきたいですね。

物語は全てLOVEなんだよぉお

─ 最終話では、あの独身貴族だったIT企業社長の藤島直也が人生で重大な決断をしますね。ネタバレするので決断の内容は言えませんが、その男気溢れる展開については、読者の大いなる共感を呼びそうです。

 ええ、藤島の重大決心については、二作品前あたりから伏線を張っておいたので、このシリーズをずっと読んでくださっている読者の方は、ああ、そうかと納得いただけるんじゃないかと思います。このエピソードも、今まで独身貴族だった藤島が、自分の家、自分の居場所というものを改めて考えるということにつながっていきます。最初に言ったように、人間って誰もが自分のよりどころを探し続けているんですよね。そしてそこには必ず人と人との温かいつながりがある。作者としては、藤島がそういう場所を見つけるには、今回のこのタイミングしかないと思っていました。

─ 紺もそうですが、藤島さんも今作品ではかなり株を上げていますよね。男気もあるし、ちゃんと人生背負っている感じがします。

 いや本当にそうですよね。最初は全然そんなつもりはなくて、ハンサムでリッチな青年実業家というありがちな人物像だったのが、そのキャラが物語の中ですごく成長しちゃったっていう感じです。もう作者もびっくり、こういうキャラを置いておいてよかったと自分でも感心するくらい(笑)。
 堀田家の人々だけでなく、堀田家をめぐる登場人物たちが思いもよらずいい感じで成長して、物語の核心部分で活躍してくれるのは、作者冥利に尽きます。

─ この最終話も含めて今回はさまざまな家が登場して、その背景には胸にしみる物語がいくつもありました。盗作事件があったとき、我南人が紺にポツリと言います。「世の中の物語は全てLOVEなんだよぉお」と。この言葉に尽きる気がします。

 ありがとうございます。堀田家の人は我南人をはじめ、みんなセンシティブで気持ちの機微がわかる人たちですよね。だから失敗しちゃった人にも優しい。堀田家が風通しのいい居場所であるということは、そういうことかもしれません。

─ 本編が三作続きました。次回は番外編になるということで、本編のシリーズが再開するのは再来年ですね。

 番外編についても、本編についてもまだまったく考えていません。イギリスに行っている藍子あいこ(我南人の長女)とマードックの夫妻が帰ってくるかもしれないし、それはそれで新しい風になりそうです。登場人物たちがまた勝手に動き始めてくれるまで待とうかなと(笑)。

「東京バンドワゴンシリーズ」の既刊情報は、特設サイトでご確認ください。
https://www.shueisha.co.jp/bandwagon/

小路幸也

しょうじ・ゆきや●作家。
1961年北海道生まれ。著書に「東京バンドワゴンシリーズ」をはじめ、『空を見上げる古い歌を口ずさむ』(メフィスト賞)『Q.O.L.』『東京公園』『花咲小路一丁目の髪結いの亭主』『〈銀の鰊亭〉の御挨拶』『三兄弟の僕らは』等多数。

『イエロー・サブマリン 東京バンドワゴン』

小路幸也 著

4月24日発売・単行本

本体1,500円+税

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