[本を読む]
とんでもない仕掛けに拍手喝采
浅暮三文の『困った死体は瞑らない』は、紹介に困る作品である。『困った死体』に続く、ミステリー・シリーズの第二弾なのだが、どこまで内容に触れていいのか分からない。とりあえず、差支えのない部分を書いておこう。
オカルト大好きな鑑識課員の
本書は前巻と同じく、短篇四作が収録されている。豆腐の角に頭をぶつけて死んだとしか思えない豆腐店の主人。水中発火で焼死した力士。屋上で墜落死した、サンタクロースの格好をしたビルのオーナー。呪殺された男。奇妙奇天烈な事件が面白く、かなり無茶だが合理的である真相に感心する。どの作品も、ミステリーとして大いに楽しめた。
さて、ここまでは書いて問題なし。悩むのは、前巻を読んでぶっ飛んでしまった、ある趣向だ。それが本書でも続いているのである。どう考えても、繰り返しギャグとしか思えないが、作者はいかなる意図で、こんな趣向を盛り込んでいるのか。困惑しながら読み進めていたら、第二話「世界で一番重たい茹で卵」で少し様子が違ってくる。なんと一連の事件の裏には、巨大(?)な秘密が隠されていたのだ。そして繰り返しギャグは、伏線だったのである。第三話「サンタクロースが堕ちた夜」を経て、第四話「電話で死す」で明らかになる真相に、啞然茫然。ついでにいえば、第一話「豆腐の死角」のパロディ・ネタの部分も伏線ではないか。「分かる訳ないだろー!」と叫びながら、とんでもない仕掛けで読者を翻弄しまくった、作者の手腕に拍手喝采。普通のミステリーでは満足できない人は必読といいたくなる、驚愕の作品なのだ。
細谷正充
ほそや・まさみつ●文芸評論家