[本を読む]
解かれた後も謎が尾を引く、
過去イチの後味
取り返しのつかないあやまちや後悔を、どう受け止め生きていくのか。生馬直樹は第三回新潮ミステリー大賞受賞のデビュー作『夏をなくした少年たち』、第二作『偽りのラストパス』で、そのテーマを描き出してきた。第三作『雪と心臓』でも同様だ。ただし、後味がまるで違う。
プロローグで活写されるのは、ホワイトクリスマスの夜に発生した事件の顚末だ。時は二〇一二年、舞台は新潟。郊外の一軒家で火災が起き、二階には逃げ遅れた一〇歳の少女がいた。その家へ飛び込んでいったのは、たまたま近くに居合わせた二〇代の青年だ。彼は少女を救出するが、そのまま自分の車に乗せて連れ去ってしまう。英雄はなぜ犯罪者となったのか?
続く本編では、時間が一九九七年に巻き戻る。プロローグなど存在しなかったかのような空気で、「ぼく」が小学五年生だった頃に始まり、中学生、高校生と青春期を歩む姿が描かれていく。全六章の冒頭には「日常の謎」が掲げられているものの、ミステリー要素はフックにすぎない。デビュー作以来、少年の震える心を捉える力は確かなものがあったが、今回は特に「少年小説家」としての筆が乗りに乗っている。特に中学生時代が、やばいくらい生々しい。そして、過去イチで楽しい。「ぼく」よりもすべての点において優れている双子の姉・
これまでの二作において、主人公にとって過去とは、現在の自分を縛り付けるものにすぎなかった。本作では過去が、主人公を助けてくれる。いや、もしかしたら〝あの人〟が助けてくれた、と感じる読者もいるかもしれない。そこがこの小説の面白さなのだが、あの人のあの発言は、主人公の記憶の中で創造されたものではないのか? ……いささか勇み足が過ぎたようだ。とにかく、過去イチで尾を引く後味であることは間違いない。一気読みを推奨します。
吉田大助
よしだ・だいすけ●ライター