[本を読む]
自分の生き方をとりもどすこと
それがストライキだ
ストライキとは何か。働かないで、賃上げを要求することだろうか。
そうではない。ストライキとは、自分の労働を、自分でコントロールすることだ。つまり自分の働き方を、自分で決めることだ。
それなら、フリーランスになればいいじゃないか。そういう意見もあるかもしれない。しかし、ことはそう簡単ではない。
現代の不安定労働の多くは、フリーランスが担っている。しかし、彼らが自分の働き方を自分で決められないことは、いまでは広く知られた問題になった。
それはなぜか。一人一人がバラバラだからだ。一人で交渉しても、契約を切られてしまえば終わりである。自由なようで、少しも自由ではない。
そこで、一人ではなく、まとまって交渉する必要が出てくる。その手段の一つが、集団で労働の提供を拒否することだ。これがストライキである。
つまりストライキは、自分たちの働き方を、自分たちで決める手段である。一九五〇年代までは、日本の労組も、働き方を自分たちで決めていた。それに経営が介入してくると、ストライキで対抗した。
ところが高度経済成長期からあとは、賃上げさえ認められれば、働き方の決定は経営側に事実上お任せになった。その後は、労組といえば、賃上げしか要求しないというイメージができあがった。いまではその要求すら実現できなくなり、労組は存在意義を疑われている。
本書は、そんな経緯で定着してしまった労組やストライキの固定観念を問い
いま必要な本だ。なぜなら、自分の生き方をとりもどしたいと思っている人が、これほど増えている時代はないのだから。
小熊英二
おぐま・えいじ●歴史社会学者、慶應義塾大学教授