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東えりかが読む北方謙三「チンギス紀」
両者一歩も引かぬ闘い

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両者一歩も引かぬ闘い

 ケレイト王国のトオリル・カンとともにきん国にくみしてタタル族と戦ったテムジンは、金国もタタル族も敵とするジャンダラン氏のおさ、ジャムカとたもとを分かった『チンギス紀 六 断金だんきん』。同い年、同じ思いを語り合い、最も親しい友であったふたりの青春の終焉を読み終わったとき、次に起こるのは何か、読者のほとんどは察していたのではないだろうか。
『虎落』では想像通り、トオリル・カンと組んだテムジン軍と、ジャムカ、タイチウト族長のタルグダイ、そしてメルキト族の若き族長アインガの三者連合軍との死闘が描かれる。両者一歩も引かぬ闘いは、本書の主要な登場人物それぞれの視点から細かく語られ物語は進む。広大な草原に攻守入り乱れ討ち討たれる様子は、三国志、大水滸伝シリーズで磨き上げた北方謙三の筆が冴えわたる。
 ドローンの空撮のように鳥瞰された軍勢の動きが目の前に展開される。フォーカスを絞ると、そこにいるのは無念無想のテムジン、鬼の形相のジャムカ、人のよさそうなジャカ・ガンボ、執念をたぎらせるタルグダイ、酷薄な笑いを浮かべるトオリル・カンである。
 病に倒れたテムジンの異母弟、ベルグティの戦いは圧巻だ。颯爽と出陣する姿は記憶に残る。彼もまたこの物語で最後まで語られる英雄となるだろう。
絶影ぜつえい』でテムジンの手に渡った吹毛剣すいもうけんも期待に違わぬ働きを見せ、テムジンに脈々と伝わる遺伝子の偉大さに胸が熱くなる。
 北方はインタビューで「チンギス紀と大水滸伝は違うシリーズである」と断言した。だが私は、大水滸伝の源ともいえる『楊家将ようかしょう』を思い出さずにはいられない。家族を愛し、一族の繋がりを大事にして強固な国を目指した楊業ようぎょうの姿がテムジンと重なる。
 モンゴル族間の戦いはひとまず一区切りを遂げたのか? この後、テムジンが周辺国をどのように併呑へいどんしていくのだろう。人類史上最大規模のモンゴル帝国成立までのカウントダウンが始まった。

東えりか

あづま・えりか●書評家、書評サイト「HONZ」副代表

『チンギス紀 七 虎落』

北方謙三 著

3月26日発売・単行本

本体1,600円+税

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