[本を読む]
両者一歩も引かぬ闘い
ケレイト王国のトオリル・カンとともに
『虎落』では想像通り、トオリル・カンと組んだテムジン軍と、ジャムカ、タイチウト族長のタルグダイ、そしてメルキト族の若き族長アインガの三者連合軍との死闘が描かれる。両者一歩も引かぬ闘いは、本書の主要な登場人物それぞれの視点から細かく語られ物語は進む。広大な草原に攻守入り乱れ討ち討たれる様子は、三国志、大水滸伝シリーズで磨き上げた北方謙三の筆が冴えわたる。
ドローンの空撮のように鳥瞰された軍勢の動きが目の前に展開される。フォーカスを絞ると、そこにいるのは無念無想のテムジン、鬼の形相のジャムカ、人のよさそうなジャカ・ガンボ、執念を
病に倒れたテムジンの異母弟、ベルグティの戦いは圧巻だ。颯爽と出陣する姿は記憶に残る。彼もまたこの物語で最後まで語られる英雄となるだろう。
『
北方はインタビューで「チンギス紀と大水滸伝は違うシリーズである」と断言した。だが私は、大水滸伝の源ともいえる『
モンゴル族間の戦いはひとまず一区切りを遂げたのか? この後、テムジンが周辺国をどのように
東えりか
あづま・えりか●書評家、書評サイト「HONZ」副代表