[本を読む]
「今」こそ読みたい少女小説
北海道
もう一人は
宮田を苦しめるのは死してなお夢枕に立って「完璧」を求めてくる母親の姿であり、バカにしていたド田舎の学校で成績首位を譲ろうとしない、くさいほど絵になる優等生、奥沢の存在だ。その奥沢を
幼い頃から「東大のピアノ科」という実態のないゴールを漠然と目指していただけの宮田は、青春を謳歌する級友たちが次々と将来の夢を見つける中、自分だけ未来の解像度が極端に粗いことに愕然とする。痛ましいほどの焦燥が渦巻く十二歳の春と夏、そして二人が「奇跡」に気づく十七歳の秋が描かれる。
読み終えて久しぶりに幼馴染に会いたくなった。長く短い十代の時間を同じ女子校で過ごした連中である。あの頃の我々は自分たちを何でも数値化して比較していた。どの家が裕福でどの家が貧乏、全国模試でA判定だったのは誰と誰。死ぬほど
『金木犀とメテオラ』は王道のライバルもの少女小説と言える。宮田や奥沢によく似ていた幼馴染たち、読んだらどんな感想を持つだろう。大人になった我々はもう、あんなふうに互いの優劣を競い合うことはない。あの頃、面と向かっては言えなかった胸の内を、本作の感想としてなら、交わし合える気がする。
岡田 育
おかだ・いく●文筆家