[本を読む]
グルメ本じゃないのに、
台北に飛んで行きたくなる
ああ、今読むべきではなかった。読み始めてしばらくして、激しく後悔した。
立体造形作家、雑貨コレクター、スーパーマーケットマニア、IKEAマニア、旅のエキスパート……さまざまな顔を持つユカさんの忙しさはすでに想像を絶するものであったはず。が、「事務所の契約更新を機に、仕事場を台北に移す」と思い立つと、(レオン・ライのおっかけで香港に部屋を借りた前科はあれど)周囲の驚きと戸惑いを尻目に軽やかに実現してしまった。売れっ子ゆえ行きっぱなしというわけにもいかず台北と東京を頻繁に往復し、生活、仕事環境を整えるまでの体力も気力も消耗する目まぐるしい日々が描かれているはずなのに、日記に流れる時間はテレビでもおなじみの著者の語り口そのままにどこかゆるやかで癒される。大家さん母子をはじめとする台湾の人々、日本の友人たちとのしなやかなおつきあいから、食べ物、雑貨、街並み、文化まで……生物、無生物を問わずマニアックかつまっすぐに向けるまなざしがどこまでも心地よい。台湾好きにも、森井ユカファンにもたまらない一冊だ。
ああ、読んでよかった。今すぐは無理でも、きっと行く。物理的にも精神的にもやっぱりこんなに近い、台北。
泉 京鹿
いずみ・きょうか●翻訳家