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泉 京鹿 『月イチ台北どローカル日記』森井ユカ 著

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グルメ本じゃないのに、
台北に飛んで行きたくなる

 ああ、今読むべきではなかった。読み始めてしばらくして、激しく後悔した。蛋黄芋餅ダンホアンユイビン(玉子の黄身と肉でんぶ入りタロイモ団子)、碗粿ワーグイ(豚肉や玉子の黄身、しいたけなどが入った米粉の茶碗蒸しで、みたらし団子のような甘しょっぱいタレをかけ、チリソースとすりおろしにんにくを少々乗せていただく)、油葱飯ヨーツオンハン(葱油をかけたご飯)、番茹牛肉麺フアンジヤーニユーロウメン(トマト牛肉麺)(本文より)……。
 春水堂チユンスイタン貢茶ゴンチヤのタピオカミルクティ、鼎泰豐デインタイフオンの小籠包をはじめ、台湾の味が日本でも気軽に楽しめるようになった昨今。それでも、やはり現地で味わいたい魅力的なローカルフードが無尽蔵な台湾。本書のそこかしこに登場する店名や料理の名前が、懐かしい味や匂いの記憶を呼びさます。さらに未知の食べものが、立体造形作家でもある著者によってまるで目の前に3D化されたかのように描写され、食べられないのがひたすらもどかしく、台北にいない自分がやりきれない。この本はユカさんの日記で、グルメ本じゃないのに。
 立体造形作家、雑貨コレクター、スーパーマーケットマニア、IKEAマニア、旅のエキスパート……さまざまな顔を持つユカさんの忙しさはすでに想像を絶するものであったはず。が、「事務所の契約更新を機に、仕事場を台北に移す」と思い立つと、(レオン・ライのおっかけで香港に部屋を借りた前科はあれど)周囲の驚きと戸惑いを尻目に軽やかに実現してしまった。売れっ子ゆえ行きっぱなしというわけにもいかず台北と東京を頻繁に往復し、生活、仕事環境を整えるまでの体力も気力も消耗する目まぐるしい日々が描かれているはずなのに、日記に流れる時間はテレビでもおなじみの著者の語り口そのままにどこかゆるやかで癒される。大家さん母子をはじめとする台湾の人々、日本の友人たちとのしなやかなおつきあいから、食べ物、雑貨、街並み、文化まで……生物、無生物を問わずマニアックかつまっすぐに向けるまなざしがどこまでも心地よい。台湾好きにも、森井ユカファンにもたまらない一冊だ。
 ああ、読んでよかった。今すぐは無理でも、きっと行く。物理的にも精神的にもやっぱりこんなに近い、台北。

泉 京鹿

いずみ・きょうか●翻訳家

『月イチ台北どローカル日記』

森井ユカ 著

1月24日発売・単行本

本体1,300円+税

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