[本を読む]
ひきこもり
“ルネッサンス(再生)”の奇跡
筆者は現在44歳。職業・漫才師、コンビ名を
ここまで、ロクなものではなかった。中2の夏から不登校となり、6年間の「ひきこもり」。大検を取得し地方大学に潜り込むも、失踪同然で上京し、芸人を志す。3畳のボロアパートで約10年
20歳手前で物理的には「ひきこもり」を脱しはしたが、芸で飯が食えるようになり、長女を授かるまでは、「人生が余った」という虚無感に
その頃の名残か、社交が苦手。
芸能人として致命傷である。もっともらしく分析すれば、人間関係の基本、「親子」で
何しろこの20年で両親と会ったのは2、3回。兄弟に至っては連絡さえ取っていない。別に
「この間、実家に帰ったらお袋がさー」
といった“普通”とは無縁。まあ、“そういう家族”というだけである。
本書で描かれるのは、7つの家族の物語。皆一様に、“普通”から滑落した人々だ。そこからの再生、“ルネッサンス”の物語でもあるが、その歩みはあまりに弱々しく、輝かしいものではない。
しかし、長い間「社会と関係ない人間」だった筆者には、痛いほどわかる。踏み出した一歩の偉大さも、それが
彼らを知れば、「8050問題」はすべての家族に起こりうるリアルな“将来”の1つであり、にもかかわらず差し伸べられる手の少なさに愕然とする。
この国には、一度脱落した者が再び舞い戻ることを
「ウチは大丈夫! 良かったね!」
と相対的な幸福感を得るネタとして消費するだけの時期はとうに過ぎたと、皆が自覚するべきかもしれぬ。
最後に、かつて“当事者”だったことを盾にとり、不謹慎な物言いをお許しいただこう。
本書は「面白い読み物」。
絶妙な距離感で取材対象と接し続けた著者が、丁寧かつ情熱的に書き上げた一冊……「ひきこもって」一息に読み終えることをお勧めする。
山田ルイ53世
やまだ・るい・ごじゅうさんせい●漫才師