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特集/本文を読む

次世代論客特別対談 白井 聡×斎藤幸平

[特集]

「大分岐」の時代に求められる
新書の役割とは?

本特集の最後を飾るのは、次世代を担う論客のおふたり、白井聡さんと斎藤幸平さんによる特別対談です。

撮影=五十嵐和博

白井 集英社新書の執筆者のなかでも若い方に分類される私と、さらに若い世代に属する斎藤幸平さんとで、これからの時代における新書の役割について、今日は議論していきたいと思っています。

斎藤 これからの時代というのは、さまざまな危機が多発する時代、ということですよね。
 今までどおりの常識が通用しなくなり、究極的には人類の存続も脅かすような事態になるかどうかの、「大分岐」の時代を迎えています。

白井 集英社新書が創刊されたのは20世紀が幕をおろそうとする時期でしたが、当時より世界の抱える問題ははるかに複雑化しています。まさにそのような時代にふさわしく、このレーベルは常識に拘束されない大きな枠で大変化をとらえてきた。つまり大胆に物事をとらえる著者たちの背中を押し、さらにエッジの効いた議論に仕立て上げてきた。刊行当時は「衝撃」の内容でも、それがだいたい数年たつと、そのとおりになり、「常識」になっている。
 私の『国体論 菊と星条旗』も時間がたつほどに、現実が追いついてきているとよく言われます。おそらく東京五輪が閉幕したあとに、その意味がもっと伝わるようになってくるでしょう。
 戦前期においては「菊=天皇」が国体であったのに対し、戦後日本では「星条旗=対米従属」を「国体」として内面化している。
「国体」の致命的問題は、それがそこに生きる人間の思考能力を奪い、奴隷根性を蔓延【はびこ】らせることです。だから、日本人は現実と向き合うことができずに、アメリカの庇護のもと「我が国はうまくいっている」というファンタジーを生きている。東京五輪とは、要するにこのファンタジーを延命させるためのバカ騒ぎ。しかし、そのファンタジーも機能しない厳しい時代がやってくるでしょう。「平成=丸ごと失われた30年」の間、ものを考えなかった結果をつきつけられるはずです。

斎藤 ええ。

白井 経済分野についても同じです。資本主義の限界は、今でこそビジネス界・政界の人たちの間でも半ば「常識」になってきましたが、『資本主義の終焉と歴史の危機』というベストセラーで早い時期に問題提起をした。しかも著者の水野和夫先生は、元証券マンだったわけで、資本主義の突端で働き、観察していた人が資本主義はダメらしいと言い出したので、大きな衝撃をもたらした。
 資本主義が限界に達した結果、1%の特権層によって99%の人たちにその矛盾が押しつけられることになっているわけですが、じゃあ、そこでどうするのか。とってかわる社会のビジョンをなかなか出せない、というのが万国共通の悩みですね。斎藤さんが海外の知識人と議論した対談集『未来への大分岐』、この本はその難問から逃げずに、できるかぎりのことをやろうとしている。

斎藤 今の社会のあり方ではない、代替案を想像するための力を私たちは根源から奪われています。だから、せいぜい新自由主義にNOと言うことしかできないでいる。けれども、やっぱりNOと言っているだけではダメで、資本主義を終わらせてどんな社会を構想したいのか、もっと新しいものを理論家は出していかなくてはなりません。そのように考えて、『未来への大分岐』は作っていきました。
 そうでないと、今後の世界は、GAFAのようなプラットフォームを独占する1%の超富裕層と99%の人々の分断が深まるばかりでしょう。
 これに完全機械化による失業と気候変動による資源枯渇が重なれば、ゲイティッド・コミュニティのなかでドローンとロボット兵士によって守られて暮らす支配階級が誕生し、テクノ封建制が完成していく。
 このような事態を避けるために、この本で対談をしたマイケル・ハートはこう言っています。自由、平等、民主主義といった理念を守らないといけない。それも、議会制民主主義や、市場の自由・平等にとらわれないような形で、と。

白井 よく分かります。

斎藤 香港の抗議デモが熱を帯びてきていますが、香港と違って、日本には民主主義があるから命懸けの抗議行動をする必要もないというレトリックを受け入れるなら、支配階級の思うがままです。日本でも、直接民主主義を実現しようとすれば、権力は容赦なくむかってくるでしょうが、それを跳ね返すようなパワーが必要なのです。そのために、まずは各人が想像力を取り戻すことが必要です。
 だから一般の人にも分かる言葉で新しい理論を伝えられる新書というメディアが、ますます重要になってくる。

白井 哲学や思想が今ここで必要な闘争にどう役立つのか。理論を理論として精緻に述べる専門書や老舗しにせの新書レーベルも大事ですが、理論を社会に抗うための道具として磨きあげ、新しい時代を構想するための言葉を用意するのが、危機の時代に求められる新書の役割のはずです。

白井 聡

しらい・さとし●政治学者。
1977年生まれ。専攻は政治学・社会思想。京都精華大学専任講師。2013年に刊行した『永続敗戦論─戦後日本の核心』で第4回いける本大賞、第35回石橋湛山賞、第12回角川財団学芸賞を受賞。その他の著書に『「戦後」の墓碑銘』『国体論 菊と星条旗』等。

斎藤幸平

さいとう・こうへい●哲学者。
1987年生まれ。専門は経済思想。大阪市立大学大学院経済学研究科准教授。Karl Marx's Ecosocialism: Capital,Nature, and the Unfinished Critique of PoliticalEconomy(邦訳『大洪水の前に─マルクスと惑星の物質代謝』)で、2018年、ドイッチャー記念賞を日本人初、史上最年少で受賞。

『国体論 菊と星条旗』

白井 聡 著

発売中・集英社新書

本体940円+税

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『資本主義の終わりか、人間の終焉か? 未来への大分岐』

マルクス・ガブリエル/マイケル・ハート/ポール・メイソン 著

斎藤幸平 編

発売中・集英社新書

本体980円+税

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