[注目の新刊]
堂場瞬一 著 『弾丸メシ』
堂場瞬一さんの初となるグルメエッセイ『弾丸メシ』(「小説すばる」連載作品)が発売されます。作家として多忙な日々を送る堂場さんが、三つの掟(①必ず日帰り/ ②食事は一時間以内に済ませる/③絶対に残さない)を条件に弾丸ツアーを決行。数々の〈
イラスト=秋山洋子
「ラッキーピエロ」のハンバーガー(函館)
こうなると食事ではなく、「イベント」である。
とはいえ(中略)味は確かだった。(本文より)
「永遠にダイエット中」作家が、
ハードボイルドに食を書く!
東えりか
現代の人気作家で、間違いなくトップクラスの忙しさを誇る堂場瞬一は「食べること」にも貪欲である。とある作品の打ち上げ時、編集者から「食のコラム」連載の依頼を受けた。
いやだいやだと言いながら「日帰り」「食事時間は一時間以内」「絶対に残さない」の条件を付けて引き受ける。某昭和の文豪が散歩しながら食べたものを書いたように、着飾らない筆致が魅力的な著者初の食エッセイだ。
食べたのは福島の円盤餃子、JICA横浜国際センターの食堂の各国料理、函館「ラッキーピエロ」のハンバーガー、熊本の太平燕(タイピーエン)。日本だけでは飽き足らずベルギーに行けばじゃがいものフリットとワッフル。お酒が飲めないのに広島の酒処で美酒鍋。一仕事終わった後のご褒美には群馬のソースカツ丼。はるばるフィンランドまで行って名前だけしか知らなかったカラクッコ。吉祥寺ではステーキ、社会人になって初めて暮らした新潟では爆食ツアー。普段はさほど魚には食指が動かないけど愛媛の鯛めし、と「永遠にダイエット中」と言いながら、なかなかに健啖である。
同行する編集者も
ほぼ同世代なので、著者が若いころ食べたものの記憶は同じように懐かしい。私も最初に食べたハンバーガーはマクドナルドだし、牛肉のステーキはこの上ないご馳走だった。本書のソースカツ丼は群馬のものだったが、ここはぜひとも長野県南部のものもご賞味いただきたい。カツもおいしいけれど、カツの下で味が染みてくたっとなった千切りキャベツと白いご飯の相性がたまらないのだ。
本書を読んで旅の楽しみがまた一つ増えた。まずは熊本に行って太平燕を食べてみたい。
円盤餃子(福島)
俺は、白い飯が汚れるのが好きなのだ。(中略)フードメニューは円盤餃子(しかも一皿三十個)、水餃子、御新香に湯豆腐、冷奴、枝豆、もつ煮込ときて─白米がない!(中略)「コメがないぞ。どういうことだ」(本文より)
左上:本書に登場する〈美味いもの〉は、秋山洋子さんのイラストで詳しく解説。円盤餃子のお店に入った堂場さんは、メニューにライスがないことに驚愕!餃子はおかず?それとも主食?
右下:ライスがなかったせいか、腹具合に余裕のある堂場さんに、同行編集者が差し出したのは福島名物「プリンパン」。中央のプリンとクリーム、そしてパン生地の味付けバランスが秀逸な一品。
鯛めし(愛媛)
しゃもじで鯛を割ろうとした瞬間、思わず「お」と声が出てしまう。(中略)
本場の鯛とは、こういう風に弾力が強いものなのだろうか。(本文より)
愛媛の鯛めしは、鯛の刺身にだし汁を絡ませて白米にかける「宇和島鯛めし」(左上)と、鯛と白米を一緒に炊き込んだ「松山鯛めし」(右下)の2種類が存在する。
フリットとワッフル(ベルギー)
こ、これは……! 外側はカリッと、中はほっこり、しかもみっちり。日本人が大好きな食感だが、ことフライドポテトに関しては、こういう食感は滅多に味わえない。(本文より)
パリに滞在中だった堂場さんは、フリット(フライドポテト)とワッフルを求め、日帰りでベルギーへの取材を決行。「弾丸メシ」ヨーロッパ編は、フィンランドでも展開された。イラストは古都アントワープのフリット。
\スペシャル対談を収録!/
堂場さんが大ファンというエッセイスト・平松洋子さんとの対談を収録。食エッセイの書き方や、小説での食事シーンについてなどなど、「食」をテーマにたっぷりと語られています。
<目次>
第1回 円盤餃子(福島)
第2回 各国料理(横浜)
第3回 「ラッキーピエロ」のハンバーガー(函館)
第4回 太平燕(熊本)
第5回 フリットとワッフル(ベルギー)
第6回 美酒鍋(東広島市)
第7回 ソースカツ丼&焼きまんじゅう(群馬県高崎市)
第8回 カラクッコ(フィンランド)
第9回 ステーキ(吉祥寺)
第10回 新潟爆食ツアー(新潟)
番外編 鯛めし(愛媛)
対談 堂場瞬一氏×平松洋子氏「食を書く、食と向き合う」
東 えりか
あづま・えりか●書評家
書評サイト「HONZ」副代表