[本を読む]
やること、したいこと、できること
他人事じゃない介護エッセイ漫画!
世の中には「できる限り目を逸(そ)らしていたい現実問題」というものが多々あるが、今、多くの人にとって筆頭レベルの先送り案件となっているのが「介護」だろう。備えあれば患(うれ)いなし、と分かっちゃいても、そうなってみないことには何を考えればいいのかよく分からない。そもそも、ピンピンコロリで逝ってくれるかもしれないし、自分だけが背負うとも限らない。ついつい「何とかなるのでは」と希望的観測に縋(すが)ってしまう。
作者が出会った本書の主人公、ハルコさんも、かつてはそう思っていたという。複雑な家庭で育った夫との結婚を「老後の世話が大変だからやめなさい!」と両親に反対された際、何とかなる! と笑い飛ばした。しかし十年後、実父が癌で入院し半年後に死亡。その時点でハルコさんは遺された実母、夫の実両親と育ての両親+祖母と六人の身内高齢者をいずれ看取ることを覚悟し、ヘルパー二級の資格を習得。来(きた)る時に備えた。
ところが、実際にその日が来てみると、次々に予測不可能な事態が発生。芋ヅル式に介護&生活介助が必要になった親たちが暮らす三軒の家を、自転車で巡回する日々が始まる。気まずいことこの上ない夫の養父の下の世話。「神様仏様ハルコ様」と感謝はしても、何もしようとしない養母。夫の実母は認知症の恋人を自宅に連れ込み、九十歳になる祖母の「家出」と「迷子」が頻発し、実母が転んで骨折。病院への送迎、食事の配達、泊まり込みで見守り、掃除洗濯入浴介助。追い打ちをかけるように、ハルコさん自身にも乳癌がみつかる――。
なんとも過酷な話だ。にもかかわらず、作者である井上きみどりさんは、絶妙なタッチで深刻になりすぎぬよう介護の現実を描いていく。介護保険サービスを利用する手続きの流れや、具体的な要介護認定の判定基準。特養と老健の違いなど、「予習」すべき知識も補える。そして何よりも、頑張りすぎなハルコさんと、勝手がすぎるジジババを見守るうちに、「自分だったら」と考えずにはいられなくなる。とりあえず、貯金しよう……!
藤田香織
ふじた・かをり●書評家