[本を読む]
海外知識人との対話から導かれる、
資本主義経済からの出口
成長の鈍化と利潤率の低下が著しい。利潤の自己増殖を目的にする資本主義が終わりつつあるのだ。そして、資本主義が壁にぶつかったことで、むしろ資本はより貪欲に振る舞っている。そのような資本主義の終焉期に、AI(人工知能)の発達が重なった。テクノロジーに希望を見出す人々もいるようだが、果たしてどうか。21世紀は、AIやアルゴリズムを操ることのできる1%の超富裕層にとっては輝かしい未来になるかもしれないが、99%の我々にとっては、格差拡大など厳しい時代になるのではないか。
そんな予感を抱いているときに、現在の世代の選択しだいで、未来の形が完全に変わってしまう歴史の「大分岐」に我々はいると喝破する新書に出会った。
「テクノロジーは中立的なものではないのだ。(中略)知や権力を構造化し、利潤のために世界を再編成するための手段だからである」
このように書く編者は32歳の若手研究者であるが、歴史家エリック・ホブズボームが過去に主著で受賞した名誉ある賞を、自身の英語の著作で獲得したという日本人離れした経歴の持ち主だ。
その彼が、マイケル・ハートやマルクス・ガブリエルなど、海外の知識人を訪ね歩く。単なるインタビューではない。堂々、持論をぶつけ、資本主義の終焉に伴って進行するさまざまな矛盾――加速する富の集中、民主主義の危機、深刻化する気候変動、現実になりつつあるサイバー独裁――を俎上(そじよう)にあげ、現状の突破口を見出そうとするのだ。
その対話の成果は、「アベノミクスしかない」「いや、そうではない」という議論を延々と重ねる日本の経済論壇とは全く異なるものだった。想像力を駆使して資本主義からの出口を探し出し、多くの人々と共に、資本主義とは異なる社会の運営能力を身につけていけば、人々の手に経済を取り戻すことができるという希望を与えてくれた。
本当は終わっているのに、1%の人々が自己利益のために生き永らえさせているゾンビ化した資本主義をできるだけ早く終わらせなければならない。そう考えている私にとってこの対話集は福音であった。
水野和夫
みずの・かずお●経済学者、法政大学法学部教授