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パワーアップしたグルメ探偵
つい半世紀前まで遠い世界だった美食、グルメの愉しみ。今庶民がそれを享受できるのはめざましい経済成長のおかげだろう。収入が伸び、物流も進んで様々な食材が手に入るようになり、情報の普及も著しい。今やテレビでも小説でもグルメものは鉄板ネタといっていい。
いや、今日のグルメ情報の先端をいくのはインターネットか。本書は「スマホの普及が進む中、グルメサイト、アプリが次々にできては消えていき、まさに戦国時代を迎えている」時代を背景にしたグルメミステリー連作集の第二弾だ。
主人公の北大路亀助(きたおおじかめすけ)は大学を出て出版社に就職するが、大物作家の機嫌を損ねて左遷。暇にあかせて大学時代の先輩・島田が立ち上げたグルメサイト〝ワンプレート〞――通称ワンプに食レポを書き込む日が続いたが、やがて島田から誘われて転職、一年余後の今では会社化したワンプの編集・広告部門の統括責任者を務めると同時に、自ら〝グルメ探偵〞としても活動中。だがいつしかホンモノの事件に遭遇して、推理をする羽目に。
かくして前巻では、江戸前鮨、ワイン、モダンスパニッシュの店、老舗高級料亭で起きた事件の解決に挑んだが、今回は東京を出て、より広く舞台や素材を求める話が軸となる。第一話では、亀助たちは北海道・十勝産の素材を使ったポテトサラダで競う有名店のコンテストを企画するが、思わぬ邪魔が。第二話では銀座のクラブで密かに開かれている超高級たこ焼きパーティの謎に挑む。第三話では地域活性化に協力すべく徳之島に飛ぶが、思いもよらぬ誘拐事件に遭遇。そして第四話では東京とその周辺で暗躍する亀助の偽物たちと対峙する……。
著者はこのミス(『このミステリーがすごい!』)大賞の出身で、スケールの大きな犯罪サスペンスの書き手としてスタートした。このグルメものはそれとは対照的な作風だが、食の描写も蘊蓄(うんちく)も堂に入っている。亀助のお坊ちゃま探偵キャラは内田康夫が生んだ浅見光彦の後継者としても注目されるし、このシリーズ、長寿になるかもしれない。
香山二三郎
かやま・ふみろう●コラムニスト