[本を読む]
令和初ツアー発車オーライ!
「怪異名所巡り」がもう十冊目になったかと思うと、いかに本作が人気シリーズであるかを思い知る。
シリーズ初登場の『神隠し三人娘』が平成十四(二〇〇二)年に著されて、十冊目の出版が令和元年なのだから、どれだけ多くのファンから支持されているかの証明だ。
このストーリーの要(かなめ)は「幽霊と話が出来る」能力を持つ〈はと〉バスならぬ〈すずめバス〉のバスガイド町田藍(あい)の存在だ。
人並みはずれた霊感を持つ藍は、その能力を生かして〈幽霊ツアー〉を行うことで、弱小企業の〈すずめバス〉を支えている。そのツアー先でさまざまな事件に遭遇するわけだ。
シリーズ当初は荒唐無稽に思われがちだったが、今や心霊スポットを巡るタクシー会社が登場するほどで、それほど特異な事でもない世の中になったとも言える。先見性の高い設定であったと言うべきかもしれない。
最新作では、水死、誘拐、噓に敏感、二種類のこの世ならざるモノ、時間と空間の狭間、幽霊トリック……がそれぞれの短編のテーマとなっている。これらの何が面白いって、どのテーマも本質的にバスガイドとは無縁なところだ。それを多彩な人間ドラマによってバスガイドの怪異事件に仕上げていく、ここが赤川次郎先生の真骨頂ではないかと思う。
読む者は、これは何事? と息を吞むが、登場人物達は驚く事があってもすぐさま果敢に謎解きに挑み出す。
ところで……本作品と私は小さな事で繫がっている。
人気作品の本作は、平成十六(二〇〇四)年に『霊感バスガイド事件簿』(テレビ朝日)のタイトルでドラマ化された。
その第三話「神隠し三人娘」に、この世ならざるモノが映り、尚且つそのまま放送されたと話題となった事をきっかけに、私は取材調査を行ったのだ。
スタッフへの聞き込みにより、どうやら本当にこの世の人ではない男が映っていると証言がとれる……。
それから十五年、この書評の仕事を頂けたのはきっと藍ちゃんの引き寄せる能力のおかげだろう。
木原浩勝
きはら・ひろかつ●作家、怪異蒐集家