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今月のエッセイ/本文を読む

高嶋哲夫 『沖縄コンフィデンシャル レキオスの生きる道』

[今月のエッセイ]

誰も書かなかった
沖縄、琉球、レキオス

 沖縄を舞台にした警察小説を書きませんか、と言ってもらってもう五年以上がたつ。
 沖縄については、『トルーマン・レター』で書いたことがあった。二十年以上も前の話だ。米軍のレイプ事件、日米地位協定をサイドストーリーにして、トルーマン米国大統領がなぜ、敗戦が決定づけられていた日本の広島と長崎に原爆を落としたのか、その理由を書き綴った。トルーマンの愛人宛の手紙が存在するという話をもとに書いたものだ。手紙にあるトルーマンの思想こそが、アメリカの沖縄戦、その後の統治につながるものではなかったのか。
 大学生の頃はベトナム戦争末期で、沖縄からベトナム爆撃に飛び立つ爆撃機への非難や、沖縄返還運動も当時の学生運動を背景に盛り上がっていた。
 初めて沖縄に行ったのは二十一世紀になってからだ。個人的な、観光を主とした旅行だ。沖縄の警察小説を書こうと決めてからは、編集者と本格的に沖縄を回り始めた。
 首里(しゆり)城跡、中城(なかぐすく)城跡、勝連(かつれん)城跡などの世界遺産。ひめゆりの塔、平和祈念資料館、旧海軍司令部壕、陸軍病院壕跡、集団自決のあったところなど、戦争遺跡が多い。多くの住民が亡くなったガマと呼ばれる洞窟にも行った。住民の四人に一人の方が亡くなった激戦の島だ。また江戸時代からの沖縄の歴史も学び、新たな思いが加わった。
 米軍関係の友人の計らいで、米軍基地内にも入ることができた。オペレーションルーム(戦争指揮所)で、日本本土の「南海トラフ地震」について講演をした。集まった将校たちはメモを取りながら熱心に聞いてくれた。
 沖縄は必ず、毎年、何回か話題になる。六月二十三日、五月十五日。沖縄戦の終わった日、本土復帰の日だ。さらに、普天間飛行場移設問題、日米地位協定問題など、本土では考えられない話題が多い。
 沖縄には決して忘れてはならない、過去の歴史抜きでは語れない深い悲しみがある。多くを学び考えることができた。
 そして2015年から「沖縄コンフィデンシャル」シリーズのウェブ連載が始まった。
 主人公は沖縄県警本部刑事部第一課の刑事、反町雄太(そりまちゆうた) 。沖縄大好きのイケイケ刑事。その他に同年代だが性格のまったく違う、同僚の天久(あめく)ノエル、赤堀寛治(あかぼりひろのり)、ベテラン刑事の具志堅(ぐしけん)、アメリカ海兵隊のMPのケネスが登場する。
 2016年に、第一巻、『交錯捜査』が出た。それから、『ブルードラゴン』、『楽園の涙』と毎年出ている。
『交錯捜査』では、沖縄の軍用地問題、『ブルードラコン』では、米軍基地と日米の人種問題。『楽園の涙』では、沖縄に蠢(うごめ)く外国資本と返還軍用地問題に触れた。
 各巻、反町を中心に仲間たちが事件を解決していく。しかし全巻を通して、沖縄だけではなく、政府を転覆させる大きな陰謀が存在している。
 沖縄の大きな問題としては、「普天間飛行場移設問題」がある。世界一危険な飛行場を辺野古の海を埋め立てて移設する。それに対して、反対運動が行われている。
 今年は住民投票も実施されて、その賛否が問われた。
 しかし、である。僕はこの問題に関してマスコミで言われていること、日本の本土や沖縄の人たちが訴えていることは、的を外しているのではないかと思うようになった。なぜ、移設先が辺野古崎になったか。なぜ、埋め立てが必要なのか。
 沖縄には軍用地代としての年間約一千億円を含めて、年間約三千億円の沖縄振興予算が支払われている。累計は約十二兆円に上る。さしたる産業のない沖縄には大きな収入源だ。その多くが橋や空港、埋め立てに使われている。
 危険な普天間飛行場移設だけの問題であれば、とっくに移設は行われているのではないか。それがなぜ二十年以上ももめ続けているのか。もっと根源的な問題があるのではないか。
 現在の沖縄には観光客が溢れている。国際通りを歩く時、独特の空気に囲まれる。子連れの集団で歩いているのは多くは中国人、韓国、台湾の人も多く、欧米人も見かける。まさに国際化が進んでいる。
 美しい海と空。独特の自然と文化。日本の南端にある亜熱帯の美しい島。歴史に蹂躙された島でもある。
 沖縄にいちばん必要なもの。それは、現状を踏まえた上での「沖縄の未来の姿」を描くことではないだろうか。
 最終巻の『レキオスの生きる道』では、女性知事候補の声を借りて、それを示したつもりだ。「レキオスの海を護れ」。レキオスとは沖縄、琉球の人の意味だ。
 なぜ普天間飛行場の移設先が辺野古なのか、なぜ海を埋め立てる必要があるのか。沖縄の、日本の抱える問題を、新しい視点で見つめたと自負している。
 沖縄にはまだまだ書きたいことが山ほどある。戦前のこと、戦中のこと、戦後のこと、そして日本に復帰してからのこと。その時々で、深い意味を持ち、日本全土、世界に通じる問題でもある。
 登場した、反町、ノエル、赤堀の沖縄県警の刑事たちは、新しい道に踏み出した。また、会う機会があるかも知れない。

高嶋哲夫

たかしま・てつお●作家。
1949年岡山県生まれ。94年『メルトダウン』で小説現代推理新人賞、99年『イントゥルーダー』でサントリーミステリー大賞・読者賞をダブル受賞。著書に『ミッドナイト イーグル』『M8 エムエイト』『TSUNAMI 津波』『原発クライシス』『富士山噴火』『官邸襲撃』等。

『沖縄コンフィデンシャル レキオスの生きる道』

【高嶋哲夫 著】

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