青春と読書

(前略)
 さて、最新作『終末のフール』。
 これは、連作長編のかたちをとっている。終末とは、人類の終わりを表す、あの終末。ビートルズ・ナンバーの「フール・オン・ザ・ヒル」や4月1日「エイプリル・フール」のフール、愚か者のフールだ。
 5年前に、人類の運命はあと8年だと告げられた。小惑星が地球にぶつかり、壊滅的な状態になるからだ。あと3年で世界は終末を迎える。それは避けようもない。
 そんな状況のなかで、仙台の新興住宅地「ヒルズタウン」のマンションに暮らす人々の今が語られる物語だ。「終末のフール」「太陽のシール」「籠城のビール」など、8つの章で構成されている。
 終末の時を知っているとは、『オーデュボンの祈り』のカカシと同じである。やがて死ぬことを分かっている。『終末のフール』では、誰もがカカシであり名探偵なのだ。本作では、その現実をいかに受けとめて残りの時間を生きていくか。仙台のマンションの人々の人生が交錯していく。
 もちろん、人はいつか死ぬ。これまで死ななかった人はひとりもいない。
 そのことを考えると、伊坂幸太郎作品のもっとも重要なテーマはこの先にある「死」という「運命」だと分かる。殺し屋や死神を主人公に選ぶのは、「運命」を先取りしたいという切実な思いからだろうか。それでもなお、死が確実に待っていると分かっていながら、「どうしたら豊潤な人生が送れるか」が問題なのだ。そのことに気づかされる小説ばかりだ。
 死という運命を知ってしまっても、やっぱりぼくらは先の分からないまま未来を生きるしかない。この作品に登場する、ありのままの生き方を受け入れていく人々の姿勢に、なにかものすごく勇気づけられる。
 そう、『終末のフール』は、ある意味、伊坂ワールドの集大成なのだ。
 あらためて思った。
 こんな小説、読んだことない!
(よしの・じん/文芸評論家)


【伊坂幸太郎さんの本】

『終末のフール』
単行本
集英社刊
3月24日発売
定価:1,470円(税込)

 



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