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| 若い女性に圧倒的な人気を誇る、矢沢あい先生のマンガ『NANA』。私も読者のひとりとして、登場する若者たちが恋愛やバンド活動でつまずいたり立ち直ったりするのを、ハラハラしながら見守っていた。 その『NANA』をテキストに、十代の少女たちに向けて恋愛や人生の解説書を書いてみませんか、と集英社インターナショナルの編集者から連絡があったとき、私の心には「絶対やりたい!」「私にできるかな……ムリだ……」という正反対のふたつの思いがわき起こった。 前向きとためらい。強気と弱気。まさに、『NANA』の登場人物たちみたいだ。 結局、「やりたい!『NANA』について語りたい!」という気持ちが勝ち、私は『NANA恋愛勝利学』を書くことになった。 ふたりの少女が、それぞれの夢のために東京へと向かう電車の中で出会うところから始まる『NANA』の物語。バンドのボーカルとして地元ではすでに人気者のナナ(大崎ナナ)は、見た目もおとなっぽくてマイペース。 一方、恋人を追って東京にやって来たハチこと奈々(小松奈々)は、泣き虫で寂しがりやの恋多き少女だ。外見も生き方も異なるふたりだが、なぜか東京でルームシェアをすることになる。そして、そこにそれぞれの恋人や友人、家族がかかわってきて、濃密な人間ドラマが展開されるのだ。 「恋も夢も」という少女たちが精一杯生きるという点では、『NANA』は少女マンガの王道を行く。 しかし、「現代ならでは」という点もいっぱい。そのひとつが、登場人物たちの揺らぎや矛盾だ。たとえば、ミュージシャンとしてメジャーデビューするという夢をひたすら追うナナにも、「思ったことを素直に言えない」という弱さがある。逆に、恋人からのメールが来ないと言ってはメソメソするハチには、妊娠という不測の事態に至っても動じない強さがあるのだ。 そして、登場人物たちは総じてやさしく、友だちや仲間の気持ちを先まわりして考えすぎては自分が傷ついてしまう繊細さを持っている。これも、とても現代的だ。 上の世代から見れば、「どうしてこんなに気をつかいあうの?」「大きな夢がかないつつあるのに、どうしていつまでも身近な人間関係で悩んでいるの?」「この子は強いのか弱いのか、いったいどっちなの?」と、もしかすると不思議に思うかもしれないのだが、この矛盾や傷つきやすさこそ、“今のリアル”なのだろう。 『NANA恋愛勝利学』では、実際の作品のシーンをあげ、「ハチはどうしてこんな行動を取ったのだろう? あなたも、同じようなことをしてしまうことはない?」とナナやハチの言動を「自分自身の問題」として考えてもらえるように解説を試みた。 どのシーンもどのセリフも魅力的で、「どこを選ぼうか」と迷うことも多かったのだが、そんなときは、私よりもずっと『NANA』世代に近い編集者・斉藤智美さんのアドバイスがおおいに参考になった。「そうか、若い世代はこのナナの“男気”にぐっとくるわけか!」と発見しながらの共同作業は、私にとっても楽しいものだった。 そして、もうひとつの発見は、『NANA』について語っていると、なぜか自分についても語りたくなる、ということだった。これまで友だちにも話したことのない自分自身の初恋や失恋の話も、この本ではたくさん語ってしまった。私にもナナやハチの年齢からずっと仲良くしている友だちが何人かいるのだが、彼女たちがこの本を読んで何と言うか、それも個人的にはとても楽しみだ。 もちろん、書き終えた今「『NANA』の世界をちゃんと理解して書けただろうか?」という不安でいっぱいだ。でも、もし『NANA』ファンがこの本を読んで、「私の知ってるハチはこんなじゃない! ハチってこんな子だよ」と語ってくれたとしたら、それはそれでこの本には意味があったということになる、と私は思う。 『NANA恋愛勝利学』は完結したが、『NANA』の物語はまだまだ終わらない。私はまた一読者に戻って、ナナやハチの恋の行方、夢の行方にハラハラ、ドキドキしたいと思う。 そして、私はすでに『NANA』世代ではないけれど、私にもその時代があったからこそ今があるのだ、と自分の若い頃のことをもう一度、ゆっくり思い返してみよう。若い頃の自分のことを私は必ずしも好きではないのだけれど、もしかするとちょっと自分に対する見方が変わるかもしれないではないか……。 『NANA恋愛勝利学』の仕事は、著者である私自身にもそんな夢を与えてくれた。 |
【香山リカさんの本】
単行本 発行=集英社インターナショナル 発売=集英社 5月26日発売 定価:1,000円(税込) |
プロフィール
帝塚山学院大学教授。 1960年北海道生まれ。臨床経験を生かして現代人の心の病について洞察している。著書に『結婚がこわい』『ネット王子とケータイ姫』等。 |
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