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| いい痔の薬があるんだよ。挿入しても良し、飲んでも良し。え? 挿入しても良し、塗っても良しじゃないの? なんて会話を盗み聞きしてしまいました。まあ、一番爆笑していたのが私だったから、バレバレを前提としたバレ盗み聞きなんだけどね。そうそう、それで、痔なんだけど、あれってすごく痛いんだってね。ひどい時には椅子に座れないらしいよ。いやいや、でもさあ、変な病気だよね。イボ痔だの切れ痔だのと種類があるし、塗ったり飲んだり挿入したり、っていう薬があるし。でもさ、基本的に痔ってさあ……。 という話はナシです。だって私は痔じゃないし、痔について詳しい訳じゃないし、大体このエッセイは芥川賞を受賞したから書かせて頂いてるんだもの。という訳で、受賞しました。させて頂きました。とんでもない。めっそうもない。という感じですよ。だってね、私バカですよ。勉強出来ないし、運動出来ないし、方向音痴だし、高い所好きだし、たまに手ぇ震えるし、ってまあ、だから私は小説を書いているのかもしれないけど。 そうそう、バカだから、という訳ではないけど、私はプレステの使い方を知らない。よく、カードみたいな物を差し込むところを見るけど、それが一体何なのか、どう使うのか、私には分からない。壊してしまいそうで怖いから、触らない。友達の子供に「今の子供って、みんなパソコン使えるんでしょ?」なんて、憚らずに聞く人間だ。インターネット社会に思い切り乗り遅れてオロオロしてるタイプだ。パソコンを使い始めて一年も経とうというのに、普通に使いこなせるのは一太郎とメールのみ、だと思う。そう言えば、『蛇にピアス』は、私が初めてパソコンで完成させた作品だった。それまで富士通の化石と言われている親指シフトのワープロを使っていた私は、思うように打てないもどかしさを持て余し、キーボードを睨みながら、中指と人差し指のみであの作品を打ち始めた。あの頃は、一年後に自分の状況がここまで変わっているなんて、思ってもいなかった。ちゃんとブラインドタッチが出来るようになっているとも、思っていなかった。そして二つも文学賞を受賞出来るだなんて、思ってもいなかった。誰かの大がかりなジョーク、とか、長い夢、とか、全ての現実と言われるものは本当はどこにも存在してなくて、ただの映像だった、とか、色々な可能性を考えてみたけど、今見ているものが現実であれば、私は現実にすばる文学賞と芥川賞を受賞した。 いつだか、男に殴られていた日の私。変態に根性焼きをした日の私。貧しさの余りネコが美味しそうに見えた日の私。スロットでストレートに10万すった日の私。泣きながらバースデーケーキを食っていた日の私。あの頃の私の中に、今の私は生きていた。いつか絶対に夢を叶えてやる、と未来を思い描いていた。その時、私はどれだけ幸せなんだろう。なんて思ったりもした。今の私を、極貧かつ最低最悪の生活をしていた頃の彼女に見せてやりたい。いいだろ、と自慢したい。そして自慢して自慢して逆上されて殴られて根性焼きされた挙げ句、「あんたのおかげだよ」と言ってやりたい。それから、今あんたが付き合ってる男は浮気してるぜ、って暴露して、逃げたい。いや、あなたの事を思って言ってるんですよ。あなたのためを思って言ってるんですよ。だって私はあなたが居るから私なのだから。なんてカッコ良くまとめようとしても、あんまりカッコ良くないなあ。だって私、今でもカッコ良くないもの。バカだし、カッコ悪いもの。でもそんな自分が、結構私は好きなんです。なんて、やっぱりカッコ良くまとめようとしてるけど、無理無理。ま、芥川賞を受賞しても、カッコ悪い。なんて作家が一人くらい居ても、いいんじゃないかなあ。カッコ悪いという事から生まれる美しさだって、あるはずだ。なんて、やっぱ無理。 |
【金原ひとみさんの本】
単行本 集英社刊 ※第130回芥川賞受賞作 好評発売中 定価:本体1,200円+税 |
【金原ひとみさん】
東京都生まれ。 ’03年、身体改造に魅せられる若者たちの日常を描いた『蛇にピアス』で第27回すばる文学賞を受賞。今回、同作で第130回芥川賞を受賞。 |
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