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――立場上 風邪もひけない みのもんた―― こんな川柳がなにかに出ていた。 さて。 6月に文庫が出ることになった。もちろん集英社文庫。タイトルは『すべての女は痩せすぎである』。 ダイエットや美容の本ではない。美人や美男について、「みてくれ」というものについてなどを考えたエッセイである(ほかの話題もアリ)。 とはいえ、こんなタイトルの文庫を出したからには、みのもんたである。このタイトルにした以上、太れない。このタイトルで著者が肥満してたら、世間の人は「そりゃあ『すべての女は痩せすぎ』だと言いたくもなるでしょうよ」ってなもんである。 かくして今日も私はスポーツに精を出さねばならない。こう言っておくと世間の人々に「なんと立派なこころがけ。この文庫を買ってあげましょう」と思われるはず……。なかなか私は計算高い。だが実は、6月の新刊文庫とは無関係に、昔からスポーツが好きなだけだ。 相手を必要とするスポーツは、社会人だと時間合わせの都合があるから、フィットネス・ジムで泳いだり跳んだり跳ねたり持ち上げたりしている。 私の通っているジムは、あちこちに支店(?)があるので、時々インストラクターの異動がある。去年、Aさんという男性が赴任(?)してきた。 「まあ!」 私は彼を見るなり、目をみはった。 三島由紀夫そっくりだったのである。 某出版社のホームページで「あの人とあの人は似ている」とい う判定を毎年発表している私にとって、だれかに似ている人を発見するのはとてもうれしいことだ。ジムに行くたび、ひそかに彼に注目していた。 Aさんはそう背が高い男性ではない。髪は短く、面長で、色が白い。インストラクターのほとんどが、元気溌剌タイプであるのに、彼はものしずかなかんじの人である。 このものしずかなかんじで、キックボクシングや空手をとりいれたエアロビクスの指導を受け持っているAさん。武道系の動きをする彼は、ますます三島由紀夫に似ている。 トレーニング・マシンの使い方を会員に教えたりもするから、自分がやってみせるときもある。そのすがたなどは『「楯の会」を結成したばかりのころの三島由紀夫』としてよく紹介される写真そのままである。 そして三島同様、瞳の虹彩が茶色い。しかも三島本人よりもプロポーションがずっとよく、本人が「楯の会」を結成したときよりも若く、本人よりもイケメン度が高い。 「もし『三島由紀夫の生涯』みたいな映画かTVドラマを作ることになったら、まっさきに私に連絡してほしいと、いまのうちにどこかマスメディアにおしらせを出しておかないと。連絡がきたら、主演はAさんでどうかと大推薦しなくっちゃ」 そう思っていた私である。が、Aさんと話す機会はなかった。ジムでインストラクターに、事務的な質問をすることはあっても、余談をするような機会というのは、ありそうで、そうない。こっちも自分がすることでいろいろと忙しいし。 そうしたところ、先日、ようやくAさんと余談をするナチュラルな機会を得た。 「前から思ってたんですけど、Aさんって三島由紀夫に似てらっしゃいますよね」 私は言った。「え?」という表情がAさんの顔に浮かぶ。 「作家の」 私は補足した。だれかに似ているというような話題の場合、たいていは芸能人をひきあいに出すから。 「作家の三島由紀夫……」 Aさんは沈痛な表情になった。それはますます三島に似てはいたのだが、もしや、三島の外見は嫌いだったかも、言われて嫌だったかもと私は気にした。するとAさんは訊きかえしたのである。 「その人は、なにか有名な作品を書いた人ですか?」 有名な作品って……。 体育関係の職に就く人が、たとえばノーベル文学賞作家の、その名も知らず作品も読んだことがなかろうとも、奇妙なことでも悪いことでもない。文学などというのはごくごく一部の人が興味を持つ分野なのだから。しかし、三島は作家としてのみならず、社会史的に記録されている人間だと私は思っていたので、まるで予期しなかったAさんの問い返しに困った。 「え、と……。バーベルの負荷は女性の場合軽めのほうがいいかしらね」 とても困って、話題を不自然に変え、サササッとごきぶりのように逃げてしまった。 あのう、集英社文庫には三島由紀夫は入ってますんでしょうか? 立場上、気になる。 |
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