青春と読書
今月から表紙がリニューアル――レトロ・モダンな作風で人気のイラストレーター佐久間真人さんの絵が表紙を飾ります。自己紹介を兼ねて、表紙の言葉を寄せていだきました。

 「本のある風景」をテーマに『青春と読書』の表紙イラストを描かせていただくこととなりました。そして今回、第一回目に描いたのは大きな鞄と本を持ち路面電車の電停に立つ人物です。
 路面電車は、私の作品中にしばしば登場します。路面電車の路線の近くで育ったこともあり幼い頃からの身近な存在です。また、絵の題材となる、頭の中に広がる街を縦横に走り、様々な景色を見せてくれる便利な存在でもあります。
 環境に優しい交通機関として見直されつつあるものの、今では、馴染みの薄い路面電車。テレビや映画では、過ぎ去りし昭和の象徴として描かれることも多くなっています。走っている姿を実際に見たり、利用したことがない方も多いのではないでしょうか。
 私の生まれ育った街には今でも路面電車が走っています。活躍しているのは、廃線などで一旦現役を引退し全国各地から集まった車両たちです。戦前生まれから平成生まれまで、非常に多彩な車両が共存しています。最近では、車体全面を使った広告が採用されていますので一両一両、異なった色に塗られ、見た目も華やかです。しかし、歴史や形の違う車両が同じ色に塗られ活躍する姿を見ることができなくなったのは残念でもあります。華やかといえば、祭りの際などに造花や電球で装飾され走る姿も印象的です。
 のんびりと街を走る、なんとなくレトロでロマンチックな印象の路面電車ですが、全長が12〜15m、重さは15〜20tほどもある鉄の塊です。専用軌道ではなく、車や歩行者も通行する道路を走っていますので実際に近くで見るとなかなか迫力があります。猛スピードで走ってくるようなことはないのですが、接触したりすると大変なことになります。
 信号機が増えた現在では必要なくなってしまったようですが、昔は車両の前面に歩行者を受け止めるための救助網が付いていることもありました。年輩の方から「人だかりができているので覗いてみると友達が網にかかっていた!」という話を聞いたこともありますが、実際にどれほどの効果があったのかは気になるところです。今でも愛知県の博物館明治村では、救助網付きの車両が走る姿を見ることができます。
 さて、今回描いた路面電車は、冬の街をゆっくりと進み電停へ。電停に立つ人物は、近づく電車の気配に気付き読んでいた本から顔を上げます。大きな鞄と本を持って始発駅であるこの電停から路面電車に乗り込み旅が始まります。
 


プロフィール

さくま・まこと●イラストレーター。
1973年愛知県生まれ。
90年代前半から本格的に創作活動をはじめる。作家森博嗣さんと共著の絵本『猫の建築家』は佐久間さんの作品を堪能できる一冊。




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