青春と読書
 高校生の時に女友達とよく、
 「大人になったら、一緒に暮らさない?」
 といった話をしたものです。それはもちろん、「老女になった時に一緒にグループホームに入らないか」みたいな話ではなく、お互いにキャリアウーマンとなった時に高級マンションをルームシェアし、互いのボーイフレンドも交えてホームパーティー……みたいな妄想だったわけですが。
 その手の妄想は今のところ実現していませんが、しかしいくつになっても女性というのは、「一緒に暮らさない?」願望を持ち続けるものなのでした。老後の手触りが現実的に感じられるようになった昨今となっては、
 「やっぱり老後は友人が頼り」
 「一緒に住まないまでも、近くには住もうね」
 などと女友達と話すのが、妙に楽しいのです。
 『桜ハウス』を読んだ時に私が最初に思ったのは、ですから「いいなぁ、こんな生活」というものでした。ふとしたきっかけで古い一軒家に一緒に住むようになった、20代から30代の女性4人。そこから10年が経ってそれぞれの人生は少しずつ変わっていたり、変わっていなかったりする。
 この本の登場人物達は、同居を始めた時も10年後も独身なのですが、それぞれがきちんと、歳をとっていきます。異性に対する生々しい感情が薄れてくるのにも「わかるわかる」と、そして美味しい食べ物を食べている時が心底幸福であるということにも「わかるわかる」と、そのリアリティーあふれる独身女性の加齢感というものに、私はいちいちうなずきました。そして、「歳はとってもいつまでも前向きで若々しく」的な風潮を苦々しく思っているのは私だけではないのだ、と心を強くしたのです。
 特別に恵まれているわけでもなければ、エリートでもない登場人物達は、親の病気や死、それに伴う経済的な苦況といった、生々しい問題にも直面しています。彼女達は明らかに人生の盛りを過ぎ、ゆるやかな下り坂を少しずつ進んでいるように見える。
 しかし下り坂の途中にも美しい花は咲いているし、そして一緒にその花を見る友がいれば、花の美しさは何倍にもなるのです。
 その花は、豪華な薔薇や百合に比べたらほんの小さな花かもしれませんが、花というものは大きさや香りの強さで判断すべきものではない。相対評価ではなく、その人にとっての絶対評価として美しいことが大切であるということを、この本は教えてくれるのです。恋人や夫は替えがきくけれど、長年関係性を築いてきた女友達は、替えがきかない。……と、改めて感じた私。異性よりも同性の方が最終的には信頼できる、という事実はこの国にとってどうなのだろう、などと思いつつも、友人達と住む花いっぱいの老後を、どうしても妄想してしまうのでした。
(さかい・じゅんこ/エッセイスト)


【藤堂志津子さんの本】

『桜ハウス』
単行本
集英社刊
9月26日発売
定価:1,575円(税込)



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