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昭和から平成へと年号が変わってはや二十年。核家族化はさらに進行し、いまや「個食(孤食)」が問題となっているように、家族で食卓を囲むという光景が崩れつつあります。そんな時代を反映してか、昭和へのノスタルジーに彩られた家族小説から、平成時代の新しい家族像を描いたものまで、このところ家族を題材にした小説が多く書かれています。 本特集「平成家族はどこへ行く」は、中島京子さんと角田光代さんの対談をはじめ、川上健一、タケカワユキヒデ、森友治各氏によるエッセイ、そして山口文憲さんに平成時代の家族小説を概観していただきました。 本誌連載、中島京子さんの『平成大家族』は、老夫婦と妻の母、ひきこもりの長男という四人家族の家に、出戻った二人の娘家族が加わって総勢九人になるという、現代では珍しい大家族を舞台にした小説です。角田光代さんの『マザコン』は、母親という存在を軸に、母と娘、母と息子、父と娘、夫と妻、恋人同士の関係を描き、現在の家族のあり方を深いところで捉えた作品です。それぞれの育った家族の話も交えて、家族小説の現在を語っていただきました。 ■中島家のルール、角田家のルール 角田 『平成大家族』、ほんとにおもしろかったです。大興奮。まだ年が明けたばかりですけど、もしかしたら今年一番おもしろいんじゃないかって。 中島 ありがとうございます。年末までいい続けてください(笑)。 角田 お書きになる最初のきっかけはなにかあったんですか。 中島 連作で家族の話はどうだろうかみたいなことが編集の方からあって、わたしはひとり者なので、最初は家族の話といってもな、みたいな気持ちがあったんですけど、話しているうちに、せっかくだったらおじいちゃんもいておばあちゃんもいて……みたいな感じでわっと盛り上がったんです。でも、家に帰って冷静に考えると、わたしの周りにそんな家族いないよとか思って(笑)。 ともあれ、現代ならではの大家族があるとしたらどんな感じなんだろうと考えて、こういうのだったらありそうかもと思ってスタートしたという感じですね。 角田 家族構成も最初に考えた段階のまま? 中島 最初のままです。角田さんは書かれるときに、家族がどんどん増えちゃったり、減っちゃったりっていうのはあるんですか。 角田 ないです(笑)。でも、人数が多いと難しいじゃないですか。ある人のことを書こうとするとその人ばかり書いちゃって、あっ、おばあちゃんが出てこないやと気づいて、おばあちゃんをわざとらしく出したり。その辺が難しいなって思ったんですけど、中島さんは家族メンバーの出し入れがすごくうまくて、いつもその人の姿が見えている。 中島 角田さんが『空中庭園』などでおやりになっているように、一つの話に一人主人公が立つようなかたちで、その章ではそのメインの人が出てくれば、ほかの人は出てこなくてもいいかと思いながら、あまりバランスは考えずに書いていたんです。ひきこもりの克郎(かつろう)なんか、全然出てこない章もありましたし。 角田 でも、克郎って存在感ありますよね。実際に出てはこなくても、しっかり居るっていう存在感が。 子供の頃、ホームドラマとかお好きでした? 中島 こういう話をすると、わたしの家族の偏頗(へんぱ)さが見えてきちゃうんですけど、あまりテレビを見ちゃいけないうちだったんです。 角田 ほんとうに? 中島 テレビを見ていい時間が三十分とか決められていて。そうすると、子供番組を一本しか見られないんです。 角田 わたしはすごいテレビっ子で、小学生の頃に、ちょうどホームドラマが異様に流行っていたんです。「寺内貫太郎一家」とか「時間ですよ」とか。大好きだったんです。いまでも家族がたくさん出てくると、それだけでわくわくしてくるというのは、あの頃の原体験なんですね。『平成大家族』の冒頭は、あの頃のテレビドラマを思い出させるような興奮がありました。 中島 ありがとうございます。ちょっと話が飛びますけど、角田さんはNHKの「食彩浪漫」っていう番組に出られましたよね。あの番組は夜中に何度も再放送するので、わたし、三回くらい角田さんのラム料理(羊のハーブ焼き)を拝見することになって(笑)。 あの中で、角田さんのおうちでは野菜を食べなくてもいいことになってたっておっしゃってましたよね。ほんとに野菜は召し上がらなかったんですか。 角田 はいはいはい(笑)。ほんとなんです。ハンバーグに付け合わせでニンジンとかトマトとかついてますよね。母親がこれは彩りだから食べなくていいっていうんです。ハンバーグだけだと色が偏るからって(笑)。 中島 お母さまも召し上がらない? 角田 あまり好きじゃなかったみたいですね、野菜は。どの家族でもそういうへんなことって、ありますよね。 中島 うちは両親が二人とも働いてたんです。その頃は母親が働いてるのはわりと珍しかったんですけど、母は大学の先生で、留学して家にいなかった時期もあったんです。そんなこともあって、他所(よそ)の家と比べてちょっとへんな家だったんですね。だから、「他所の家のお母さんはちゃんとやってるのよ」とかよくわからない叱りが入ったりするんです。 角田 へ? 中島 他所はもっときちんとしてる、うちはスタンダードじゃないということを肝(きも)に銘じよ、みたいな感じでたいへんでした。 角田 へえー。おもしろい(笑)。 |
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(一部抜粋) |
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