早いものでらもさんがいなくなって2年になる。 出棺にもお骨あげにも立ち会わせていただいたのだが、今だにらもさんが「亡くなった」とは思えない。 今ごろ、正宗屋でギター片手にコップ酒呑んでるんじゃないだろうか。そんな気がしてならない。私らの前からはわけあって姿を消していなくなったが、きっとどこかを歩いている。そう、小歩危(こぼけ)ルカ(*1)のように。 編集者として、あるいはただの酔っぱらい=せんべろ探偵(*2)としてらもさんのお伴をしていた私は、酒席こそ叶わなくなったが、現在も一緒に仕事をやらせてもらっている。らもさんの代わりに、畏れおおくも「著者校」までやらせてもらっている。一昨年の7月、らもさんが転落事故で入院中に「DECO‐CHIN」(光文社文庫『蒐集家(コレクター) 異形コレクション』所収)の校正をしたのが著者校正の始まりだった。 今回、集英社から刊行されるらもさんの短篇集『君はフィクション』にも「DECO‐CHIN」は収録されている。“絶筆”が未完の近未来私小説『ロカ』なら「DECO‐CHIN」は、中島らも“最後”の小説である。 ロック雑誌の編集者がフリークスのバンドに衝撃を受け、自らの手足を切断し更にはペニスを額に埋め込み、ブルースハープのミュージシャンとして“生きる”という、らもさんにしか書けなかっただろう傑作だ。『ロカ』の中で小歩危ルカがこの小説の構想(設定は異なるが)を語っているのも興味深い。 らもさんは小説家であり、ロッカーだった。本著には、未発表2作(「水妖はん」「狂言・地籍神」)を含む10作の短篇が収録されているが、ハードボイルド作家が二重人格の女の子に恋して2倍の人生を手に入れる表題作「君はフィクション」、70年代、中津川フォークジャンボリーを舞台にした「結婚しようよ」などの恋愛小説があれば、「恐怖」の本質に迫る「コルトナの亡霊」や民話的怪異譚の「水妖はん」や「山紫館の怪」といったホラー小説もある。そうしてらもさんが敬愛したロッカー・山口冨士夫へ贈った「ねたのよい」、完璧を求める調律師が人生の不調律の意味に目覚める「バッド・チューニング」、前述の「DECO‐CHIN」も含めた一連の“ロック小説群”がある。確かなテクニックと自在なアドリブで綴られたこれら“ロック小説”も作家にしてロッカー、常に実演者でありつづけた中島らもにしか書けないものだ。 “エンタテインメント職人”として読者のことをいつも意識していたらもさん。同じようなものは二度と書かず、趣向を変え、絶えず怖がらせ、笑わせてくれた人だった。『君はフィクション』にはそんならもさんのエッセンスが満載だが、本人不在のため「あとがき」はない。代わりにらもさんの容(ゆる)し(?)を得て、長女の中島さなえさんにエッセイをおねがいした。題して「父のフィクション」。タイトルの巧さと文章のリズム感は父君譲りである。 *1 中島らも氏の絶筆『ロカ』の主人公の老作家。 *2 千円でべろべろになるほど飲める居酒屋を探し歩く紀行、『“せんべろ”探偵が行く』を中島らも氏と小堀氏は共著で刊行した。 |
|
(こぼり・じゅん/編集者) |
【中島らもさんの本】
単行本 集英社刊 7月26日発売 定価:1,470円(税込) |
|
|