青春と読書
中場利一さんの新刊『シックスポケッツ・チルドレン』(2007年1月刊行予定)は、大阪府南部の田尻町に住む小学5年生、ヤンチこと山内信少年を主人公にした、熱のこもった悪ガキ小説。
時代は大阪万博で賑わう1970年。今と同じくいじめや親の暴力もあった。しかし、ここで描かれる大人も子どももどこか生き生きとしている。ご自身も家族や子どもをテーマにした作品を多く書かれている重松清さんに聞き手をお願いし、本作の背景でもある〈作家・中場利一〉の核心に迫っていただきました。


いまだに朝から立ち飲み屋が……

―――すごくおもしろかった。

中場 ほんまですか?

―――すごくよかった。ヤンチ、それから親父の一夫、これも強烈でしたね。

中場 すごかったですか。

―――主人公のヤンチは、1970年の万博のときに小学校5年生。これは中場さんの少年時代と重なってるんですよね。

中場 ぼくも万博のとき小学校5年生やから、ちょうどそれくらいです。

―――最初から、自分のリアルタイムの少年時代を舞台にしようと考えていたんですか。

中場 岸和田辺りの漁師町に点々と友達がいるでしょ。そいつらの子どものときの写真をみんな見せてもらったんですよ。そしたら、ぜーんぶ一緒やったんですよ。おんなしような紙芝居見て、おんなしようなことして遊んで、おんなしような服着て。それを見て、ああ、この年代でいこうって。
 それにあの辺、30年以上たった今でも全然変わってない。


―――ということは、今でもここに出てくるような親父たちが立ち飲み屋で呑んでたり。

中場 いまだに朝の8時くらいから立ち飲み屋が開いていて、みんな、ばんばん呑んでますよ。

―――まったく同じ(笑)。

中場 着てる服とか食べてるものは多少変わってる。せやけどみんな貧乏やから、あの頃と全然変わってないなあ。

―――中場さんはこの本を懐かしみながら書いたんじゃなくて、今も周りにある風景を見ながら書いたんですね。

中場 とゆうか、今のほうが近いと思う。懐かしいと思って書いたら、もっと暗(くら)なるような気がします。

―――最初のほうは昭和の懐かしい悪ガキものとして読んでいたんですね。でも、真ん中辺りから時代設定を忘れてしまった。すごく、今なんですよ。とくに「ベートーベン」って底意地の悪い子が出てくるでしょう。ああいうやつって、今いそうじゃないですか。なんかどんどんどんどんリアルになってきて、昔の話を読んでる感じがしなくなったんですよ。

中場 それ、ぼくが時代を書くのを忘れていたんじゃないですか(笑)。

―――忘れていた?

中場 いやいや、いろいろ考えまして(笑)。

―――こういう70年前後の岸和田を闊歩するゴンタたちを書くというのは、最初から頭にありました?

中場 最初と終わりだけを決めて書き始めるから、いつも途中でだんだん変わってくる。それで出たとこ勝負になっていくから、今回もおんなし。なんにも狙(ねろ)うてないと思うんですけどね。

―――府営住宅に住んでいる転校生の「ヨコワケ」という子が出てきますけど、彼が最後あんなにたくましくなるというのも、最初は考えてなかったんですか。

中場 ヨコワケはすぐまた引っ越して、おらんようになる。最初はそう考えてたんだけど、なんかこいつおもしろいな、好きやなあと思って。おまえ、傍におれ! みたいな。こういうやつもおって、ええんちゃうかなって。
 もし、あそこでヨコワケを引っ越しさせてたら、全然違うもんになってたかもしれない。


―――ぼくはこのヨコワケがすごく好きで、とくに彼の、泣いてからが強いっていうのが、とても胸に沁みたんです。たぶんヤンチはどんなときでも泣かない。泣かずに強い。だけど、ふつうの子どもってやっぱり先に泣くし、負けるんですよ。それでも、負けた後から強くなるっていうのが、なんかいいですよね。ヨコワケのその後の成長した姿を見てみたい気がする。

中場 今日は正直にゆうときますけど、ヨコワケはね、重松さんからのパクリのつもりで書いたんです(笑)。

―――ぼくも一瞬、そうか、転校生が来たぞって思いました(笑)。
  (一部抜粋)


【中場利一さんの本】

 『シックスポケッツ・チルドレン』
単行本
集英社刊
1月26日発売予定
定価:1,575円(税込)
プロフィール

なかば・りいち●作家。
1959年岸和田市生まれ。
94年『岸和田少年愚連隊』でデビュー。著書に『バラガキ』『スピン・キッズ』『ノーサラリーマン・ノークライ』『ノーサラリーマン・ノークライ2 ミスター・シープ』等。


しげまつ・きよし●作家。
1963年岡山県生まれ。
著書に『小さき者へ』『半パン・デイズ』『きよしこ』『ナイフ』(坪田譲治文学賞)『エイジ』(山本周五郎賞)『ビタミンF』(直木賞)『その日のまえに』等。




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