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この秋、「北方水滸伝」が装いも新たに文庫版として刊行が始まりました。 また、「小説すばる」では11月号より続編の『楊令(ようれい)伝』の連載が始まっています。 「北方水滸伝」の新たなスタートを記念して、大の北方ファンで、中国史に関して一家言をお持ちのロック・ミュージシャンの吉川晃司さんをゲストにお迎えしました。 「史実の穴にはロマンがある」 吉川 北方さんとは遠い昔から書物で間接的には出会ってますけど、直接お会いしたのは、一昨年、上野の森美術館でやっていた「大兵馬俑(へいばよう)展」の産経新聞の取材で対談したのが最初ですよね。 北方 そう。だけど、中国史にえらく詳しくて、やたらと専門的なことを訊くんだよな。 吉川 訊きたいことがいっぱいあったんですよ。北方さんは『三国志』や『水滸伝』を書いているわけだから、中国史に関する知識は基本的に全部網羅されてるんだろうと。 北方 そりゃ甘いよ(笑)。三国時代や宋代だったらともかく、殷(いん)周時代のことなんか細かく訊かれたってわかるわけがない。 俺としては、始皇帝というのは小説的にどんな魅力があるのかとかいった話をしたかったわけ。ところが、やたらに細かいことを訊きたがるから、こいつはなんでこんなに勉強したがるんだろうと思ったね。 吉川 そういうとかっこ悪いじゃないですか。勉強したがるんじゃなくて、夢を見たがるとかいって欲しいな(笑)。 北方 夢を見たがるやつが、ふつう『史記』は読まないぜ。 吉川 だって、未来よりもむしろ過去のほうがロマンがあるじゃないですか。北方さんだって、ハードボイルドを書く土壌を過去に求めたというのがあるわけじゃないですか。 北方 そうよ。 吉川 史実といっても実際にはわからない部分があって穴だらけだし、そこにロマンがあるわけですよ。 北方 その穴を埋めるのになんかやってるの? 吉川 勝手に空想して面白がってる。 北方 空想して考えるのは小説家の仕事だよ(笑)。 吉川 いや、読んでるほうもそうなんですよ。たとえば、『三国志』も北方さんのだけじゃなくていろんな作家の方のを読んで、それぞれにいろいろな空想のかたちが出てくるのが面白い。 北方 俺の『三国志』は、よく読んでくれたみたいだな。 吉川 何度も読み返しましたよ。これはご本人の前では恥ずかしくていいにくいんだけど、自分が人生に2回か3回あるかないかの大きな岐路に立ったとき、ちょうど北方さんの『三国志』に出会って、そこからずいぶん学ばせてもらいました。自分にとっては教科書みたいな感じでしたね。 それを読んでかなり助かった。だから、ひとのいうことをほとんど聞かずに生きてきたんだけど、北方さんのいうことだけは聞いてるんですよ。 北方 吉川は、ひとのいうことを聞かないわけ? 吉川 ひとのいうことは聞かずに、書物の中に師を求めるというか。大体、ロックとかやってると、ひとに指示されるってことがないし、むしろ指示されたくないからやってるわけですよ。どいつもこいつもつまらない――みたいなところから始まるわけじゃないですか。 北方 ともかく、そうやって芸能界で20年生き残ってるんだから、そこは評価できるよ。 吉川 そこだけですか(笑)。 |
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(一部抜粋) |
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