青春と読書
 集英社文庫五月の「スポーツ・青春フェア」に合わせた今月の特集です。新緑の季節にぴったりの爽快な作品と出合ってください。

『銀河のワールドカップ』で全国制覇を目指す小学生サッカーチームを描いた川端裕人さんと、『はなうた日和』の著者で、現在本誌にてプロ野球を舞台にした「GO!GO!アリゲーターズ」を連載中の山本幸久さん。お二人に永遠のテーマである「青春」についてお話しいただきました。

■自然にそうなるタイプ

川端 青春小説とはいっても、ぼくは書く時にすごく意識している訳でもないんです。例えば江國香織さんは、小説を書くとごく自然に恋愛小説になってしまう作家だと思うんですが、僕も書くと自然と青春小説ぽくなってしまう。その意味では、僕も「書いたらそうなるタイプ」の書き手じゃないかなと。
山本 ちょっとずつ成長していくお話というジャンルが、青春小説にはありますよね。
川端 自分でもなぜそれを物語の枠組みとして好んでしまうのかは、よく分からない。山本さんの作風にも成長物語というのは色濃くありますが、どれほど意識して書かれているんですか。
山本 僕は、やや大仰にいえば、「つまらない毎日だけれど、もうちょっと頑張ってみよう」と読者に思わせる作品が書きたいんです。登場人物が階段を一歩ずつ上がっていくのを実感できるような作品を書きたい。嫌な話は書けないですからね。
川端 納得できる。すごく共感します。
山本 川端さんの『銀河のワールドカップ』に出てくる不動産屋のように、嫌なやつだったのが、最終的には主人公を応援する側に回っている。それも一つの成長だと思うんですよ。
川端 うれしい言葉ですね。山本さんの『笑う招き猫』の社長も、みんなでお好み焼きを食べに行くシーンがありますよね。それを成長というべきなのかは分からないけど、「青春を取り戻す」という感じでした。
山本 それから、僕には「悪役が書けない」ということがあります。
川端 そう、思わず膝を叩きます。僕も初めて本を出したとき、人から「川端さん、悪人書けないの」といわれたことがあった。「悪人をあまり見たことがないんですよ」と答えましたけど(笑)。
山本 そうなんですよね。
川端 弱い人やずるい人は見たことあるけれど、悪い人ってなかなかいない。
山本 テレビドラマでも小説でも、僕が中高生の頃までは倒すべき巨悪がいたんですが、今自分の身に起きている困難や辛いことが巨悪によって起こされているのかというと、違う気がするんです。


■やり残したことばかり

川端 自分の経験が生きているんですかって聞かれることがありますが、僕は経験というよりも、欠落が生きているという感じです。やり残し感のようなものがないですか?
山本 あります。やり残したことばかり(笑)。
川端 アリゲーターズのアリーの中に入りたかったとか、漫才やりたかったとか(笑)。
山本 川端さんは自伝的な作品『今ここにいる僕らは』をお書きになっていますが、あれはどういうスタンスで書かれたんですか?
川端 あれも、どちらかというと「やり残し」なんです。
山本 じゃあ、こういう子たちと川を遡って行きたかった、ということなんですね?
川端 近いですね。川は遡ったけれど、先に帰ってきてしまって上流までは遡っていない。釣り好きの友だちはいたけれど、大きなゲンゴロウブナは釣れなかった、とか。決して私小説ではないんです。自分の中の欠落している何かにダイレクトに繋げていくフィクションって感覚です。
山本 僕は漫画家になりたかったんですが、お話を作るのが好きで、毎日考えていたんです。小さい頃の家の風呂場は照明が暗かったんですが、その中で暗くて怖いなと思いながら、一人で一生懸命考えていました。
川端 薄暗い風呂場が原体験(笑)。
山本 あとは、塾の帰りの暗い道とか。
川端 ああ。それって、うらやましい体験ですね。
山本 どうしようもない体験ですよ。でも、そのうち「ダ・ヴィンチ」の連載(『山本くんには友達がいない』)に書くと思います。
  (一部抜粋)


【川端裕人さんの本】

『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)
発売中
定価780円



【山本幸久さんの本】

『はなうた日和』(集英社文庫)
発売中
定価500円

プロフィール

川端裕人
かわばた・ひろと●作家。
1964年兵庫県生まれ。著書に『クジラを捕って、考えた』『夏のロケット』『銀河のワールドカップ』『エピデミック』『バカ親、バカ教師にもほどがある』(藤原和博氏との共著)等。


山本幸久
やまもと・ゆきひさ●作家。
1966年東京都生まれ。著書に『笑う招き猫』(小説すばる新人賞)『はなうた日和』『幸福ロケット』『美晴さんランナウェイ』『男は敵、女はもっと敵』『渋谷に里帰り』等。



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