青春と読書
一九六八年

 誕生。出生体重は四五七五グラムで、ムダに大きかった。ちなみに、この年に日本で公開された映画で、のちに見て感銘を受けた作品は――『猿の惑星』、『暴力脱獄』、『さらば友よ』、『絞殺魔』、『ブリット』、『絞死刑』などなど。

一九七三年(五歳)

 当時住んでいた町には映画館が四つもあり、町中には映画のポスターがベタベタと貼ってあったりして、映画はとても身近な存在だった。それに、映画好きの両親の影響で、テレビで放映される映画をよく見ていた。そんな環境の中、ごく自然な流れで両親から地元限定での映画館デビューを許され、初めて見に行った映画は、『男はつらいよ/寅次郎忘れな草』『チョットだけョ全員集合!!』の二本立て。ドリフが大好きだったのだ。ドリフの映画が上映されているあいだ、満杯の場内は爆笑の連続で、僕もみんなと一緒に大声で笑った。この幸福な初体験をきっかけに、映画館がいっぺんに好きになる。
 ちなみに、この年に『燃えよドラゴン』が封切られるが、見逃してしまう。地元の映画館で公開されなかったのだ。人生で一、二を争う痛恨事。

一九七五〜八一年(小学校時代)

 学校が本当に嫌いで、よく仮病を使って休み、地元の映画館に通った。邦画中心のプログラムだったので、この時期に公開された邦画はほとんど見ていた。いまでも当時の映像が鮮明に目の前に浮かぶほど印象に残っている作品は――『砂の器』、『新幹線大爆破』、『絶唱』、『犬神家の一族』、『ひとごろし』、『おとうと』、『悪魔の手毬唄』、『恋人岬』、『犬神の悪霊(たたり)』、『HOUSE』、『獄門島』、『人間の証明』、『ダブル・クラッチ』、『事件』、『鬼畜』、『殺人遊戯』、『復讐するは我にあり』、『あゝ野麦峠』、『トラブルマン/笑うと殺すゾ』、『蘇える金狼』、『配達されない三通の手紙』、『ルパン三世/カリオストロの城』、『震える舌』などなど。
 特に、『犬神家の一族』『悪魔の手毬唄』などの市川崑監督作品を見たことは強烈なトラウマとなる。それらを見に行った日の夜は決まって眠れないか、眠ってもひどくうなされたので、両親から映画館通いを禁止されそうになった。のちに、トラウマを与えた張本人である市川崑監督に会えることになるとは、この頃の僕は知る由もない。
 ちなみに、親に内緒で初めて《都会の映画館》(都会とは言っても池袋だが)に行ったのは一九七八年のことで、見た作品は『ナイル殺人事件』だった。アガサ・クリスティの小説が好きだったので、どうしても見たかったのだが、地元の映画館では公開予定がなかったのだ。一人で《都会の映画館》に行くことは、ちょっとした冒険気分だった。映画が始まる前にテレビのCMが流れた時には、「都会の映画館はすげぇ」とちょっとしたカルチャーショックを受ける。映画を見終わったあと、記念にと買ったパンフレットの存在が父親に見つかり、《都会の映画館》に行ったことがばれ(当時、パンフレットには販売した映画館の名前が印刷されていた)、「不良になるつもりかっ!」と思い切り殴られる。それ以降、《都会の映画館》で映画を見た時に限ってパンフレットを買わなくなる。学習効果というやつである。
 そういえば、一九七九年に『酔拳』を見てジャッキー・チェンと出会う。衝撃をおぼえる。
  (一部抜粋)


【金城一紀さんの本】

『映画篇』
単行本
集英社刊
7月26日発売
定価:1,470円(税込)
プロフィール

金城一紀
かねしろ・かずき●作家。
1968年生まれ。
著書に『レヴォリューションNo.3』『GO』『フライ,ダディ,フライ』『対話篇』等。

金城一紀「映画篇」期間限定サイト
http://www.shueisha.co.jp/kaneshiro/




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