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政治学者・姜尚中さんのs-woman.net(集英社の女性誌サイト)人気連載が一冊の本になりました。この息苦しい社会で「まとも」に生き残る道はあるのでしょうか。――この問いに応えるべく、「お金」「仕事」「幸せ」など誰もが気になる10のテーマに即して、姜さんが〈みんなの声〉という読者の意見を受け止め、そのヒントを提示しています。題して『ニッポン・サバイバル――不確かな時代を生き抜く10のヒント』。今号の小特集は、この姜さんの新しいスタイルの一冊に、村山由佳さんとの対談、酒井順子さんと阿部真大さんの寄稿、書店員さんへのアンケートを通して迫ります。 まずは姜さんと、若者の迷いや悩みを等身大に描き、若い世代の共感を集める村山由佳さんとの対談。『ニッポン・サバイバル』を通して感じたことや、いまを生き抜くための〈術〉についてお話しいただきました。 ボーダーを越えなければ、 見えてこないものがある 姜 ご無沙汰しています。何かのパーティでお会いして以来ですよね。今日は少しゆっくり話せそうでよかった。 村山 こちらこそ、楽しみにしていました。 姜 気楽に行きましょう(笑)。 村山 『ニッポン・サバイバル』、とても興味深く読ませていただきました。今回の新書はこれまでのものとは趣きが違いますよね。「お金を持っている人が勝ちですか?」「どうしたら幸せになれますか?」なんていう読者の率直な声に、姜さんが答えていらっしゃる。どの項目もはっきり答えが出るものではないけれど、でも、どういうふうにこの問題を考えたらいいかという“考え方のマニュアル”の本という感じがしました。 姜 やっぱりこんな時代ですから、みんなが息苦しさを感じて生きていますよね。次から次へと情報が押し寄せ、考えるのも面倒くさくなっている人もいると思う。そういうときに、ただ流されるだけでなく、人生のロードマップのようなものを示すことができたらいいなと思ったんです。若干なりとも、生きるヒントを示せたらいいなと。 村山 若干どころじゃないと思いますよ。たとえば「お金についてどう考えたらいいか」なんて、特に若い世代はちゃんと考えたことないと思うんです。でも、この本を読めば、お金というものをいろいろな局面からとらえて、さらにそこに付随してくる問題まで視野に入れることができる。その先は、自分で勉強するなり考えるなりして結果を出しましょう、という余地も残されていて、非常に幅の大きなマニュアルになっているなと思いました。 姜 読者の意見を集めた〈みんなの声〉を読んで感じたのは、やはり狭い世界で物ごとを考えている人が少なくない。こんなに人が自由に移動できる時代になったのに、ますます点の中に閉塞しているような気がしていて。点と点とが関係を結んでいるだけで、全然それが面に広がっていないんです。 村山 みんな、すぐ答えが欲しいし。 姜 そう、すぐ結果が欲しい。でも、どうなんでしょう。無駄なことをしなければ、何が役に立つのか、わからないのではないでしょうか。このことを、ある高名な経済史家の本を通じて教えられました。 要するに、道草をしたから大事なものが見えてくる場合があるんです。ところが東大なんかに入ってくる学生の多くはその逆のようです。無駄なことには手をつけない習性があるようです。 村山 子供のときから無駄なことをしないように、しないように親が操作しているわけですからね(笑)。 |
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(一部抜粋) |
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