青春と読書
本誌連載の「ぼくらの先生はラグビー怪獣」が、『この風にトライ』として単行本になりました。本書の主人公の一人、アッシーを書いているとき、著者の上岡伸雄さんの頭には、ラグビー日本代表として活躍された大八木淳史さんの姿がいつも浮かんでいたそうです。大八木さんが同志社大学ラグビー部時代、同時期に早稲田大学ラグビー部でプレーしていたノンフィクションライターの松瀬学さんも交えて、ラグビーの素晴らしさを熱く語っていただきました。

●大八木淳史のノンフィクション?

松瀬 大八木さんが『この風にトライ』を読んで、一番心に響いた部分は何でしたか。
大八木 やっぱりアッシーやね、熊沢敦(くまざわあつし)。
上岡 どうもすみません、勝手にキャラクターを使わせていただいて(笑)。
大八木 宮沢賢治の絡みで、アッシーは岩手県出身となっているんでしょうけれど、できれば関西人でやってほしかったな(笑)。
松瀬 このアッシーのキャラが大八木さんとあまりにぴったりで、上岡さんは大八木さんのことをよく知っているんだなと感心したんです。
上岡 いや、大八木さんのキャラクターがそれだけ広まっているんですよ。
大八木 ええこといいますね(笑)。
 ところで、アッシーは同僚の木島(きじま)先生が好きなんでしょ。二人は結婚しないんですか。
上岡 大八木さんの許しが得られれば。
大八木 多分あれは恋愛関係があったと思うけどね。何の話や(笑)。
松瀬 ということは、自分とオーバーラップしてるわけ?
大八木 してへん。何でそこでかぶせんの(笑)。
松瀬 自分と似ているところを感じましたか。
大八木 指導しているうちに熱くなって叱ったりとかいうのは、似てるなと思います。ぼくもアッシーと同じように、ついカーッとなるとこあるから。
松瀬 私も、読んでいてまるで大八木淳史のノンフィクションかと思いました。大八木さんは、いま実際に小学生にラグビーを教えているんですよね。
大八木 ええ。スポットですけど、ラグビーボールを持って全国のいろいろな小学校に指導に行ってます。机上で教えられへんことを楕円球を通じて教えるとき、どうしても感情的になってしまうところがある。そういう指導者に対しては賛否両論あると思うんやけど、でも、いまの教育現場を見ていると、熱い教師とか、指導者、大人が少なくなったということを感じますね。そういう意味でも、ラグビーだけじゃなく、広く教育の問題として、この本は学校の先生に読んでほしいと思います。
上岡 ありがとうございます。
松瀬 私は読んでいて何度か思わず涙目になってしまったんですけど、大八木さんは?
大八木 ラグビーをやった人間としては、どうしても熱くなるというか、涙が出そうになるくらい感情移入してしまいますね。最後のほうで、語り手の治生(はるお)の家族が山登りに行きますよね。あの辺はやっぱりググッとくる。
松瀬 グッときますよね。
 あの治生くんは上岡さんの小さいころに似ているんですか。
上岡 ほぼそうです。ぼく自身、あまり運動が得意じゃなかったですから、ラグビーを自分がやれるなんて思っていなかったんですけど、高校の体育の授業でラグビーをやったときに、ラグビーってけっこうおもしろいものなんだと思ったんです。運動に自信がない人間でも、思い切って飛び込めばでかい相手を倒せるじゃないですか。
 それで大学に入ってから、少し運動をしたいと思ったときに、よしラグビーをやろう、と。しかし、さすがに本チャンのラグビー部は無理だろうと思って、同好会に入ったんです。でも、同好会でもきつかったですね。生半可にやれないスポーツですから。
松瀬 上岡さんは、ふだんは翻訳をメインに仕事をされているわけですが、小説、しかもラグビーをテーマにした小説を書こうと思ったのは、なにかきっかけがあったんですか。
上岡 他人の作品の翻訳ばかりしていると、どこかで自分で書いてみたいという気持ちが生まれてくるんです。ラグビーはずっと好きで見てきたし、それに、このところラグビーの競技人口が減っているというのでラグビーを盛り上げるために自分にも何かできないかなと思ってもいたところ、大八木さんがタグラグビーを熱心に指導していらっしゃるというのを聞いたりとか、いろいろな要素が絡まっていますね。
松瀬 それから、「プロジェクトX」。
上岡 はい、そうです。もう七年くらい前ですか、NHKの「プロジェクトX」で大八木さんの母校である伏見工業高校ラグビー部のドキュメンタリーをやっていて、それを観て感動したのは大きかった。あの回の「プロジェクトX」はビデオに録って、何度も観て泣いています(笑)。
 それから、小説の中にも出てきますけれども、「日本の小学校の校庭がすべて芝生になり、そこで小学生がラグビーをするようになればいい」と。これはサッカーの川淵三郎さんが実際にいっていることで、その芝生の上で、大八木さんのような熱いキャラクターの先生がラグビーを教えたらどうなるだろう。その辺から話が一気にわき起こってきたんです。

(一部抜粋)


【上岡伸雄さんの本】

『この風にトライ』
集英社刊
単行本
発売中
定価1,680円(税込)

  プロフィール

上岡伸雄
かみおか・のぶお●学習院大学文学部教授・翻訳家。
1958年東京都生まれ。大学時代に同好会でラグビーに触れ、その後もずっとラグビーのファン。翻訳書にE・アニー・プルー『シッピング・ニュース』等。



大八木淳史
おおやぎ・あつし●元ラグビー日本代表。
1961年京都府生まれ。高知中央高等学校にてラグビー部ゼネラルマネージャーを務める傍ら、小学生を対象にラグビーの指導・普及にも取り組んでいる。



松瀬 学
まつせ・まなぶ●ノンフィクションライター。
1960年長崎県生まれ。高校、大学ではラグビー部に所属。著書に『宇津木妙子・麗華物語』『日本を想い、イラクを翔けた 〜ラガー外交官・奥克彦の生涯』等。



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