青春と読書
 「住民とともにつくる医療」の最前線に立つ諏訪中央病院名誉院長の鎌田實さん。このたび32年の臨床医経験や自らの体験を踏まえて健康長寿を達成する方法を明かす『ちょい太(ふと)でだいじょうぶ メタボリック シンドロームにならないコツ』が発売されます。医師として作家としての鎌田さんの活躍は、軽快なフットワークと、温かな人間性ゆえのネットワークの上に成り立っているようです。自ら足を運び二人の研究者に話を聞いた「鎌田實が聞く」をはじめ、鎌田さんにゆかりのある方々の声からは、「がんばっている」鎌田さんの姿が浮かび上がってきます。

 最近、内臓脂肪症候群とかメタボリックシンドローム、ということばをよく目にする。新聞では今までの扱いと明らかに違い、何度も一面で大々的に扱われている。日本では内臓脂肪症候群の有病者と予備軍あわせて2700万人。中高年の男性の半数が危険だと言われている。すごい数字なのだ。
 肥満と高脂血症、高血糖、高血圧が重なりあうと、それぞれは問題にしなくてもよいぐらい軽い異常でも、脳卒中、心筋梗塞、脳血管性認知症などを高率に起こすという。死の四重奏などとも言われている。怖いのだ。
 内科医として、外来でできるだけ薬に頼らず、食事や運動に注意することで、生活習慣病と闘ってきた。脳卒中の多発地域で、その克服のために、地域ぐるみで健康づくり運動を展開し、不健康だった地域を日本でも有数の長生きのできる地域にした。長寿になると老人が多く、老人が多ければ、医療費が高くなるはずなのに、僕たちの地域の医療費は安い。それはただの長生きではなく、健康で長生きができるようになったからと考えられる。
 そんな中で、あるとき自分が、肥満であることに気づいた。すぐに、トマト寒天を中心にしたダイエットを行なった結果8kgの減量に成功した。BMIは25以下に下がり、肥満ではなくなった。体脂肪計にのってみると、体脂肪率は22%、ここでも自分は肥満になっていない。
 しかし、メタボリックシンドロームの診断基準(※1)のひとつであるウエストが85cmにひっかかったのだ。自分が隠れ肥満であることがわかった。高血糖と高血圧はないが、中性脂肪が180mg/dlと、少し高い。内臓脂肪症候群の予備軍なのだ。
 自分の体で健康で長生き、不老長寿を試みてみたいと思った。たくさんの文献を漁り理論固めをした。30冊程の健康の一般書を読みながら、いろいろ実践してみた。
 僕は自分の体で一年間、がんばらないダイエットの実験をしながら、『ちょい太でだいじょうぶ』(集英社刊)という本を書いた。少し太っているほうが、がんにも脳卒中にも認知症にも肺炎にもなりにくく、長生きしているのだ。おお太はいけないけどちょっとだけ太っているのは心配ない。
 総コレステロールも、220mg/dlという正常値を僕は目指さない。おいしいものは食べたいのである。調べてみると体重だけでなく、コレステロールも少しぐらい高くても心配ないことがわかった。「ちょいコレのすすめ」なんて書きたくなって、理論武装するために、まず富山大学へ向かった。

※1 メタボリックシンドロームの診断基準 「腹腔内脂肪蓄積(ウエストが男性85cm以上、女性90cm以上)」に、「高脂血症(高中性脂肪血症、または低HDLコレステロール)」「高血圧」「高血糖」のうち2項目以上が該当した状態。


【鎌田實さんの本】

『ちょい太でだいじょうぶ メタボリック シンドロームにならないコツ
単行本
集英社刊
9月26日発売
定価:1,680円(税込)
プロフィール

かまた・みのる●医師。
1948年東京都生まれ。
諏訪中央病院名誉院長。「住民とともにつくる医療」を提案、実践する傍ら、15年に及ぶチェルノブイリの救護活動にも参加。著書に『がんばらない』『あきらめない』『雪とパイナップル』『病院なんか嫌いだ』等。



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