来るべき世界への俯瞰図 北村龍行
米国一極集中の時代の終わりは見えても、来るべき時代はまだ見えない。それどころか、米国のサブプライムローン問題に端を発した世界的な金融の信用収縮というデフレ状況の中で、原燃料、穀物などの一次産品価格が上昇してインフレが発生するという落着きの悪さが世界経済を覆っている。
地球温暖化問題が世界の最重要課題として浮上する一方、台頭する新興国が国際政治・経済の両面で存在感を増している。これらの新興国が世界の政治・経済においてどのような役割と責任を担おうとしているのかもまだわからない。
冷戦の終焉によってわかりやすい世界が開かれるかと思ったが、現実は世界的リーダーシップの不在とプレーヤーの増加で複雑さを増している。ただ、主要国が占めていた順位や位置づけが変わりつつあり、主要国であるための資格も変わりつつあるのは感じることができる。
そんなわかりにくい世界の俯瞰図を描くために著者は「中国VS.アメリカ」「ロシアVS.アメリカ・EU」「EUVS.アメリカ」「サウジアラビアVS.アメリカ」「中国VS.日本」という5つの対決軸を設定した。本書の主題が、世界の勢力の順位と位置づけの変動の俯瞰図を描くことなのだから、座席を奪い合うのは誰と誰かという対決軸の設定という手法は巧みである。
特に「サウジアラピアVS.アメリカ」という対決軸を設定することにより、世界の原油供給はどのような国に依存しているのかを浮かび上がらせた記述は秀逸だ。世界の原油供給は、中世的イスラム原理主義国家に依存し、同時にそこから生まれる自爆テロにおびえている構図が、説得力をもって描かれている。
また、基軸通貨の主導権争いと見られがちな「EUVS.アメリカ」の対決軸の記述では、統合のゴールに向けたEUの粘り強い意思と努力が丹念に描かれている。そこからは、世界のリーダーシップのありようもまた、強権的なものから積み上げ的なものに変わりつつあることがうかがわれる。ロシアのグルジア侵攻で時計は逆回りする可能性もあるが、著者は、EUの歩みに来るべき時代を見出している。
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『大衝突 巨大国家群・対決の行方』 集英社単行本 2008年9月26日発売 定価:1,680円(税込) |
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