ブライダルシーズンのモヤモヤを一掃! 藤田香織
サムシングブルーとは、古くから欧米に伝わる結婚式の慣習=サムシング・フォーのひとつである。結婚式当日、花嫁がなにかひとつ古いもの、新しいもの、人から借りたもの、そして「青いもの」
を身につけると、幸せになれる――男性諸兄の認知度は定かではないけれど、結婚適齢期前後の女性にとっては、もうすっかりお馴染みの基礎知識だ。
が、その「幸福のおまじない」をタイトルに裾えた本書は、そのものズバリ花嫁の物語ではない。主人公の浅川梨香は幸せの絶頂どころか、二年間付き合ってきたイラストレーターの恋人と別れたばかり。〈明日なんて私にはいらない〉と思い詰めるほどの心痛に苦しんでいたところ、追い打ちをかけるように一通の封書が届く。それは、高校時代の恋人と親友の結婚式の招待状だった。
〈恋人と別れた次の日に、昔の恋人と昔の親友の結婚式の招待状が届くなんて〉
まったくもって皮肉である。悪い冗談だと笑いたいけど、笑えない現実。哀しいわけじゃないし、別に怒っているわけでもない。だけどやっぱり割り切れない。
虚しさを抱えたまま、梨香は同じく招待された高校時代の友人らと共に、新郎新婦にお祝いの品を贈る企画にも参加を余儀なくされる。
物語はそんな「なんだかブルー」な感情を持て余している梨香が、それでも過ぎてゆく日々の中で、旧友や仕事仲間や実弟夫婦と関わるうちに、少しずつ自分を取り戻し、前を向いて再び歩き出すまでを描いてゆく。
忘れていた「あの頃」の想い。見ないふりをしていた「本当の気持ち」。飛鳥井千砂は二〇〇五年に『はるがいったら』でデビューして以来「普通の人の普通の感情」を描き続けてきたが、だからといってそれが「普通のお話」に留まらないことが最大の持ち味で、本書もしみじみ巧い、と何度も唸らされてしまった。
ブライダルシーズン真っ只中なこの季節、「おめでとう!」と素直に言えずにいる女子必読。心が強くなる物語です。
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『サムシングブルー』 集英社単行本 2008年6月26日発売 定価:1,365円(税込) |
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