混沌としたこの時代を生き抜くためのリアルな「思想」 榎本正樹
いったい日本はどうなってしまったのだろう。雇用情勢は深刻化の一途を辿り、不当解雇や派遣切りなど「雇用破壊」とでも表現できそうな悲惨な状況が生まれている。本稿執筆時の四月上旬にも、入社式の直後、新入社員に自宅待機を命じる会社が現れたり、いわゆる「2009年問題」によりハローワークに大行列ができるなどのニュースが報じられている。雇用システムの抜本的改善は、最優先で取り組まれるべき問題である。
本書は、「マガジン9条」で連載中の「雨宮処凛がゆく!」で発表された、昨年の三月から一年間ぶんの原稿をまとめたもので、『雨宮処凛の闘争ダイアリー』(08年)の続編にあたる。この一年間の状況報告であるとともに、反貧困運動にコミットする雨宮の活動記録でもある。日本各地で開催されるメーデーを駆け回り、G8サミットの抗議行動に参加し、数多くのシンポジウムやデモで積極的に発言、行動する著者は、いっぽうで、貧困ビジネスや派遣切りの実情、外国に派遣された日本人の過酷な体験など、驚愕すべき生の情報をレポする。
私が雨宮処凛を信頼するのは、運動ヘの献身的な関わりにとどまらない。自身の「生きづらさ」を出発点に、渦中に飛びこみ、行動し、体感し、思考し、それらを正確で客観的な「言葉」に還元しようとするそのスタンスだ。そのようにして生みだされた言葉の束に、私はこの時代を生き抜くためのリアルな「思想」の発露を見いだしている。
世界を変えるには、まず自分が変わらなければならない。この国に住む人間の現在と未来を犠牲にして成り立っている社会に対して、自主選択的で積極的な「責任」の行使として、わたしたちは異議申し立てを行わなければならない。そこにこそ、未来に向けての「希望」は集約している。
本書には、著者への質問コーナーや、労働問題に関するQ&A集が同時収録されている。現実的かつ具体的な情報提示は、多くの読者の問題解決の手がかりになるはずだ。
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『雨宮処凛の「生存革命」日記〜万国のプレカリアートよ、暴れろ!〜』 集英社単行本 2009年6月5日発売 定価:1260円(税込) |
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