青春と読書
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野中 柊著 『恋と恋のあいだ』
私たちへのギフト             原田マハ

 しゃれたデザインの箱に詰められた、食べるのが惜しいくらい美しいお菓子のアソート。野中柊の小説を開くとき、人なつかしい季節に届けられるギフトを手にしたような気分になる。『恋と恋のあいだ』は、格別のギフトだった。私にとって、というよりも、私たちすべての女性にとっての。
 三人の主人公たち――インテリアデザイナーの遼子、フォトグラファーの早季子、大学院生の悠は、八歳ずつくらいの年の差がある友人同士で、つかず離れずのいい距離感を保っている。それぞれに生活を楽しみ、ときに悩み、恋をしている。彼女たちの関係は、一見希薄なようにも見えるが、ふとした瞬間にお互いを意識して繋がりあっている。それぞれがひとりの時間に、お互いを思いやる場面がことさらにいい。遊びにいったり愚痴を聞いたりする一般的な友人関係ももちろん必要だろうけれど、こんなふうにさりげなく、「会いたいな」と思い出すことのできる、けれど「会いたいよ」と言わなくてもいい女ともだちを持つ彼女たちは、すでに人生で最大のギフトを手にしているように私には思われる。ときにそれは、恋人や伴侶を獲得することよりもはるかに難しいからだ。
 自立した女性であり、妻子ある男性――悠の父親に惹かれる遼子。仕事に生きがいを感じ、仕事仲間と恋をするようになる早季子。そして三人の中でもっとも若く、もっとも強い意志とみずみずしい感受性を隠そうともしない悠。彼女たちのくらしや感情のゆらめきが、どこまでもすなおに、けれど詩情をこめてていねいに描かれている。彼女たちのさりげない所作、たとえば水を飲むしぐさやため息ひとつですら、たおやかで美しい。そして、日常的な風景の積み重ねが、結局は彼女たちの誇り高い生き方をくっきりと浮かび上がらせている。
 女性であることって、ほんとうにすてきだ。読後のゆたかな余韻の中で、そんなふうに思わずにはいられない。


(はらだ・まは/作家)
『恋と恋のあいだ』
集英社単行本
2008年12月15日発売
定価:1,575円(税込)
恋と恋のあいだ
恋と恋のあいだ
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