彼女たちの"不恋愛模様" 吉田伸子
スナック菓子メーカーの販売促進部に勤務する三十五歳の鈴枝、コンタクトレンズ販売店で接客を担当する二十九歳の喜世美、通販業者の販売データ処理を請け負う会社で、日がな一日PCに向かっている二十六歳の翔子。この三人が本書の主人公だ。微妙に開いている年齢といい、仕事といい、一見接点がなさそうなこの三人は、とあるカフェテリアでの相席を機に仲良くなったランチメイトである。会社が違うので、それぞれの社内の人間の悪口を気軽に言いあえる、という楽ちんな関係だ。加えて、三人ともシングル、彼氏なし。となると、物語はこの三人の恋愛模様を描いているのか、といえばそうではなく、本書はタイトル通り、鈴枝、喜世美、翔子の"不恋愛模様"を描いているのだ。ここが、本書のユニークなところである。
"不恋愛"といっても、彼女たちがモテないわけではない。初体験の相手と思いがけずに再会した喜世美は(そもそも、その初体験というのが、彼女にとっては単なる脱処女だけが目的だったのだが)、焼けぼっくいに火がつきそうな状況になるし、翔子は翔子で、かつての専門学校の同窓生で、今やIT企業の取締役となったプチ成金の男からブランドもののプレゼント攻勢込みでアプローチされるし、鈴枝は鈴枝で、そのクールビューティな美貌で部下から慕われている。彼氏がいないのではなく、彼女たちが彼氏という存在を、強がりでも何でもなく、ごく自然に必要としていないのである。
喜世美は「自分だけを愛してほしい」と「思いつめる渇望の持ち合わせがないだけ」だし、翔子は強がりでも何でもなく、一人で生きていくのが本当に好きなだけ、鈴枝は根っからの"前向き嫌い"なだけ。恋や彼氏が人生にマストな要素じゃない女だっているのだ。でも、それでいいじゃん、人生は好きに生きていいんだよ。作者からのそんな大らかなメッセージが伝わってくる一冊だ。
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『恋愛嫌い』 集英社単行本 2008年10月24日発売 定価:1,575円(税込) |
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