女の幸せとは○○である 芳麗
○○の中に、自分ならどんな言葉を入れるだろう。今時、"自立"でもないし、"結婚""出産"なんて言葉だけでもおさまらない。そんなこと、心のどこかで分かっているのに女はいつも探している。マルの中にきちんとおさまってくれる、わかりやすくて安心できる答えを。
『瑠璃でもなく、玻璃でもなく』は、幸せを求めるふたりの女性が主人公だ。念願の結婚を果たしたものの、専業主婦生活に不完全燃焼気味の34歳の英利子と、結婚を夢見ながら不倫の恋にはまるOLの26歳の美月。ふたりはそれぞれの立場から、今、自分の手の中にはない幸せに焦がれてもがく。正反対の生活を送っているようで、ふたりともないものねだりで本能的にズルい。多くの女にも共通している習性なのだろう。食卓の風景や、デート中の会話など、何気ない日々の描写の中にも普遍的な女性の悲喜こもごもがあらわれていて、胸がちくちくと痛くなる。
唯川さんは、女が心の中に封印しているパンドラの箱をあける名手だ。運命の恋の名のもとに打算と策略を巡らせて結婚したことも、かっこよく自立しているようで実は足元がグラグラしていることも、永遠の幸せなんてこの世のどこにもないことも。女性が心にしまって気づかないフリをしている事実や秘密に唯川さんはさらりと触れる。大げさに責めるでも、弁護するでもなく、「そういうものよ」と静かに受けいれてくれる感覚があるから、暴かれてることも知らずに癒されている。
ところで。独身女がパンドラの箱にしまっているもののひとつに「恋愛と結婚は両立する」というファンタジーがある。いくつになっても、恋の完全形が結婚である、結婚すれば、幸せになれると信じていたい。だから、美月と英利子の共通の男友達である友章のセリフにはドキッとした。「生活をともにする女性に恋はできない」という男の本音をもらしながら、「恋というエネルギーを捨ててしまったら、人生の半分を失ってしまうような気がするんです。人は愛がなければ生きてゆけないのと同様、恋もなければ生きてゆけないんじゃないのかな」なんていう。
ずるいなあと思いながらも、心の奥では共感もしていた。それは男だけじゃない、たぶん、女の業でもある。恋だけでも愛だけでも幸せになれないのは、男も女も一緒なんだ。
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『瑠璃でもなく、玻璃でもなく』 集英社単行本 2008年6月26日発売 定価:1,479円(税込) |
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