子育てという覚悟 浅野素女
働く母親15人の肖像である。税務コンサルタントからパン屋のおかみさんまで、職業はさまざま。シングルマザーもいれば、夫の協力を得てキャリアに邁進する女性もいる。職探しに苦労した女性も、ベビーシッターをしながら不法滞在の身分から抜け出した女性も登場する。これら30〜40代中心のパリジェンヌたちは、みな子育てしながら、24時間を精いっぱい切り盛りしつつ、それなりに生き生きと生活している。
折しも今年、フランスにおける子育て支援とワーク・ライフ・バランスの調査に加わった私は、国の家族支援策がどうの、企業の協力体制がどうのという論じ方に、実は少々食傷ぎみ。本書を一読して一番おもしろかったのは、正直言って、弁護士から転じて市会議員となったやり手女性の言葉だった。
「キャリアを追求したら、子どもは育てられないわよ。子どもを持つだけならできる。世話を全部、他人に任せてしまえば。それならできる。…(中略)…でも、自分で子どもを育てようと思ったら、キャリアは犠牲にしなきゃならない」
反動的な言葉に聞こえるが、突き詰めればそういうものなのだ、子育てというものは。キャリアというものは。
子育ては自分の時間をいかに子どもと共有するかであって、お仕事ではない。その覚悟あってこそ、はじめて自分の人生で大切なものも見えてくる。何を取って、何を捨てるか。たとえフランスであっても、女性たちの24時間は、本当を言えば矛盾と譲歩と理不尽と後悔の絡み合う、頼りなげな紙捻のようなものなのだ。
コラムで挿入されるフランスの制度面の知識が、紹介された女性たちの日常理解の助けになるだろう。ブライベートな雰囲気の写真は、ひとりひとりの女性をぐっと身近に感じさせてくれる。
さて我が人生は……と振り返れば、私自身の子育てを支えてくれた懐深いフランス社会に、やはり感謝の念が湧いてくる。
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『パリママの24時間/仕事・家族・自分』 集英社単行本 2008年10月24日発売 定価:1,365円(税込) |
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