青春と読書
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 グラニテ、とはフランス語で「花崗岩が砕けたようにざらざらしたもの」の意味で、シャーベット状の氷菓子のこと。本書は、物語のヒロインである万里が、高校生の娘、唯香のためにリンゴのグラニテを作っている場面で幕を開ける。簡単なレシピだからこそ、かける手間暇で出来上がりが全く違うものになってしまうのがグラニテだ。娘のために、丁寧にグラニテを仕上げていく万里の姿は、優しい母親そのものだ。ただし、グラニテ を作り終えた万里が向かうのは、一回り年下の恋人のもとである。
 この冒頭が、何とも巧みだ。万里がグラニテを作るのは、恋人との逢瀬の罪滅ぼしなのだが、そのことに彼女自身が全く気づいていない。彼女のその"無垢な鈍感さ"が、幕開けのシーンで、読み手にくっきりと印象づけられる。そして、それは、物語を読み進めていくうちに、じわりじわりと効いてくる。
 かつてパリで洋菓子作りを学んだ万里は、結婚して自宅で手作りケーキを販売していた。夫に先立たれた後は、カフェをオープンさせ、今では支店を含む三店のカフェのオーナーでもある。恋人の凌駕は映画監督で、万里のカフェを撮影に使ったことがきっかけで、二人はつき合うようになったのだ。五年間、密やかにではあるが、穏やかで安定した関係だった万里と凌駕の関係は、ちょっとしたアクシデントが招いた出会いから、凌駕が次回作の映画のヒロインに唯香を起用し たことで、ゆるやかに破綻し始める……。
 女優という仕事を得たことで、自らの才能を開花させていく唯香。唯香もまた、凌駕に魅かれていく。そんな娘の姿に、"女"として嫉妬する万里。この万里の描写が圧巻で、読んでいて胸苦しくなるほどだ。そこには、女という性の裏も表も知り尽くしている作者ならではの視点がある。じゃりじゃりとした、まさに グラニテのような絶妙な歯ごたえが、後をひく一冊だ。

(よしだ・のぶこ/書評家)
『グラニテ』
集英社単行本
2008年7月25日発売
定価:1,890円(税込)
グラニテ
グラニテ
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