青春と読書
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藤堂志津子著『桜ハウス』
ひとつ屋根の下の女たち             吉田伸子

秋の始まりのある夜。二人の女が台所に立っている。今夜は七年ぶりに懐かしい顔ぶれが揃うのだ。集う場所は「桜ハウス」。ひょんなことからその家の大家となった蝶子と、かつてその店子だった綾音、遠望子、真咲。台所に立っているのは、蝶子と、今でも「桜ハウス」に住んでいる綾音である。十年前、蝶子三十六歳、遠望子三十一歳、綾音二十六歳、真咲二十一歳の四人は、この「桜ハウス」のひとつ屋根の下で暮していたのだ 物語は、この夜の再会を皮切りに、四人の女たちそれぞれのドラマが、過去と現在を織り交ぜて進んで行くのだが、何よりも、この四人の年齢設定が絶妙だ。四十六歳の蝶子以下、四十一歳で二十六歳、三十一歳、と続く彼女たちは、三十一歳の真咲以外はみんな「女の曲がり角」を曲がっている年齢なのである。要するに、もう若くない女たち。そんな彼女たちの、その年齢ならではのあれこれが、実にリアルに、ユーモラスに、そしてチクリとした棘を含めて描かれているのだ。
「桜ハウス」にいた頃は、ぶっきらぼうで地味だった遠望子が、シングルマザーになっていたり、結婚と同時に「桜ハウス」を出て行った真咲が、四年半で離婚していたり、綾音は綾音で、その美貌で相変わらず男を振り回していたり、と、まさに人生いろいろ。蝶子はといえば、七面倒くさい色恋よりは食い気とばかりに、ちょっとした美味(コロッケやミートパイ)で充足している日々……。
 物語を牽引しているのは、何といっても蝶子のキャラだ。四十六歳、独身。それなりに"女のいろいろ"を経験して来ている蝶子の、酸いも甘いも噛み分けた店子たちとの付き合い方がいい。他の三人に対してはもちろんのこと、自身に対する冷静な分析は、時にクスっと笑え、時にしんと胸に響く。女どうしが、自然体で付き合っていくことの難しさと素晴らしさ。本書はこの二つのことを、柔らかな口調で教えてくれている。


(よしだ・のぶこ/書評家)
『桜ハウス』
集英社文庫
2009年3月19日発売
定価:500円(税込)
桜ハウス
桜ハウス
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