青春と読書
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高嶋哲夫著『TSUNAMI 津波』
日本人必読のエンターテインメント           西上心太

"Sushi"や"Karaoke"、最近仕英語の辞書に載る日本語が増えているが、それらのさきがけとなった言葉が本書の題名でもある"Tsunami"だろう。
 日本列島の周辺には、ユーラシアプレートや太平洋プレートなど四つの巨大な岩盤が複雑にぶつかり合っている。そめプレートの一方が他方に潜り込み、反発して跳ね上がる際に放たれる膨大なエネルギーによって海溝型地震が引き起される。海溝型地震はマグニチュード8以上という強烈さと津波を伴うのが特徴で、四方を海に囲まれた日本は、過去に何度も地震と津波のダブルパンチによる大災害を被ってきた。
 本書は一連のパニック小説で評価の高い作者が、国際語となった津波を正面から描いた作品だ。
 名古屋が大地震に襲われ、竣工したばかりの超高層ビルが倒壊し、総理大臣をはじめとする要人が死亡する。元都知事で関東を襲った平成大震災を経験した副総理の漆原が陣頭指揮をとるが、それはプロローグに過ぎない。名古屋の地震が呼び水となり、東海、東南海、南海を震源地とする海溝型の大地震があいついで誘発され、史上例を見ない巨大な津波が太平洋沿岸を襲うのだった。
 いやあ読み始めたら止まらない。有史以来といっていいような大災害が、ページをめくるたびにくり広げられていくのだ。脱線転覆する新幹線、倒壊する高層ビル、陸に乗り上げ炎上するタンカー、地下街で溺死する人々、そしてメルトダウンが始まろうとする原子力発電所……。
 考えうる中で最悪のシナリオとはいえ、恐ろしいのはこれは単なるフィクションではなく、近い将来実際に起きる可能性が高いという現実があることだ。作者は極限の災厄を描くと同時に、防災と滅災を小説の中で啓蒙していく。地震と付き合わざるを得ない日本人にさらなる意識の変革を促す、必読のエンターテインメントである。


(にしがみ・しんた/文芸評論家)
『TSUNAMI 津波』
集英社文庫
2008年11月20日発売
定価:860円(税込)
TSUNAMI 津波
TSUNAMI 津波
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