青春と読書
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塩野七生著 ローマから日本が見える
  ローマ人の「寛容」の精神               中谷巌

 塩野七生氏によるあの壮大な『ローマ人の物語』を知らない人はいないだろう。本書は『ローマ人の物語』のエッセンスをベースに、歴史を学ぶおもしろさや意義をいやというほど教えてくれる。
 本当は『ローマ人の物語』全十五巻を読むべきなのだろうが、そこまで時間がないというのなら、とりあえずは本書を読んで欲しい。ローマの歴史から学べることがどれほど多いか、「うん、うん」と納得しながらページをめくることになるはずだ。それほど著者の「蓄積」は凄い。
 ローマが長期にわたって君臨できた根本原因のひとつはローマが被征服民族に対して「寛容」だったからというのが著者の基本メッセージである。「民族、文化、宗教の違いを認めた上で、それらをすべて包み込み」「敗者を自分たちに同化させた」ローマ人の「寛容」こそローマを「普遍帝国」たらしめた根本理由だった。
 このメッセージは今日世界の混迷を見るにつけ、納得させられる点が多い。北京オリンピックに沸いた中国だが、最大の問題のひとつは、少数民族の抑圧からくる社会の不安定性である。あるいは、アメリカがイラク攻撃で孤立しているのは、西洋的価値観以外は認めないという一神教的非寛容がまねいたものである。ローマ人の「寛容」の精神が中国やアメリカに導入されれば、世界の評価はずっと高くなるだろうし、それぞれの社会ももっと安定するはずだ。
 もうひとつ、ローマが挫折を繰り返しながら生き永らえた理由は、絶えざる「改革」にあったという。失敗から学び、成功に傲らず、じっくりと環境変化に対応して改革に成功したカエサルなどリーダーたちの聡明さとねばり。現代日本が学ぶべき「改革の思想」がここにはふんだんにちりばめられている。
 本書によって、読者の皆さんもぜひ「歴史好き」になって欲しいものだ。

(なかたに・いわお/三菱UFJリサーチ&コンサルティング理事長)
『ローマから日本が見える』
集英社文庫
2008年9月19日発売
定価:680円(税込)
ローマから日本が見える
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