青春と読書
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「普通の出産」が難しい時代に生命倫理とどう向き合うか    白河桃子

 米国在住で不妊治療を受ける38歳の友人がこう言っていた。「40過ぎたらもう代理出産か養子をすすめられるのよ」と。
 「代理出産」……。タレントの向井亜紀さん夫妻がその方法で子供を得たのは有名だが、日本にその実態は詳しくは伝わっていない。本書の著者は1980年代半ばからアメリカの代理出産事情を取材している男性ジャーナリスト。丁寧な取材に冷静な筆致で、代理出産のはらむ問題を指摘する。代理母への報酬は高額で、不妊に悩む高所得層の女性は、低所得層の女性のお腹を借りる格差の構図がある。代理母は遺伝的なつながりのない子供を10ヶ月お腹の中で育て、引き渡しのときは実のわが子と引き裂かれるような苦しみを味わう。代理母が出産した子供に障害があった場合、依頼者も代理母も引き取らず、子供が施設に入れられることもあるそうだ。
 そしてすでに「代理母」というシステムは市場を確立し、国家間の経済格差をベースとしたグローバルビジネスとして機能しているのだ。インドなど異国の代理母に依頼し、子供を連れ帰る日本人夫婦もいるという。日本には欧米と違って代理出産に関する法規制がない。生まれる子供の人権に配慮し、至急法整備をすることが必要ととく著者は、代理出産には反対だ。他人の子宮を借りてまで子供を作ろうとする親に対して、問題が起きた際に、犠牲になるのは子供であるという。人の幸福の在りようは多様なものであるし、代理出産という手段で生まれた子供がすべて「不幸」だというわけではないだろうが、高度生殖医療とビジネスが結びついたこの分野で、どこかに線引きは必要だと感じさせる説得力が本書にはある。
 拙著『「婚活」時代』では「自然に結婚するのが難しい時代」と書いたが、本当は「子供も自然にできるのが難しい時代」でもあり、そのことを女性たちはもう知っている。日本人でも、今、高度生殖医療で生まれる子供は65入に1人。現代において「普通」がいかに難しいことであるか……。それを踏まえたうえで、私たちは生命の倫理ともう一度向かい合わなくてはいけない。

(しらかわ・とうこ/ジャーナリスト)
『代理出産 生殖ビジネスと命の尊厳』
集英社新書
2009年5月15日発売
定価:735円(税込)
代理出産 生殖ビジネスと命の尊厳
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