青春と読書
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本を読む
『オバマ・ショック』
切れば血が出る生々しいアメリカ                小西克哉

 一九七〇年代の後半、大学院でアメリカ社会のエスニシティ研究を志した私は、自分を取り巻く状況にややうんざりしていた。たとえば、授業で読まされるのは五〇年代に書かれた文献なのである。私は歴史学者になりたかったわけではない。もっとドロドロした現実に踏み込みたかった。いわば「切れば血が出る、生々しいアメリカ」が知りたかったのである。
 八○年代後半から私はメディアの世界に身を投じ、『CNNデイウオッチ』などで、黒人に対するアファーマティブ・アクション(差別是正措置)など、本書でも語られているアメリカ社会のさまざまな変動――まさに「生々しいアメリカ」の姿を伝えていくことになる。そんな時期に出会ったのが、町山さんが編集し、越智さんも寄稿されている『異人たちのハリウッド』というムックだった。エスニシティという複雑な問題をこんなに楽しく論じられるのか、と感嘆させられたことを覚えている。越智さんは、その著作からうかがえる民族問題への鋭い意識と該博な知識に、「明治大学にはこんな先生がいるんだな」とずっと気になっていた人だった。そして町山さんは現在、私がパーソナリティをつとめる『ストリーム』(TBSラジオ・月〜金13時〜15時半)で、毎週、ホットなアメリカ情報を伝えていただいている。
 そんなお二人の対談だから、本書で語られるのはまぎれもなく「切れば血が出る、生々しいアメリカ」である。八○年代のレーガン連合に始まる保守体制がどのような経緯を辿って崩壊し、オパマ大統領誕生という歴史的変革につながっていったのかが、豊富なディテールとしっかりした理論的裏付けに基づいて語られていく。ディテールと理論の両方を出せる、対談という形式の強みだろう。
 アメリカについては、分かった気になっている人が多い。しかし私は、そんな人にこそ、本書をおすすめしたいと思う。


(こにし・かつや/国際ジャーナリスト)
『オバマ・ショック』
集英社新書
2009年1月16日発売
定価:735円(税込)
『オバマ・ショック』
オバマ・ショック
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