「源氏物語」を最後まで旅するための羅針盤 倉田真由美
日本で一番有名な物語の一つだが、きちんと読破したことのある人がとても少ない「源氏物語」である。
しかし、「読んでみたい」と思う人は多いはずだ。実際、著名な作家やクリエイターたちが、様々な形で「源氏物語」を題材に作品を創ってきた。魅力的な物語であることは、想に難くない。ただ、古文で書かれたそれはあまりにも敷居が高く、なかなか手を出しづらいのが現状だ。
本書は、そんな「気になる。でも読めない」我々のための本である。未知の国へ行くにはガイド本が必要だが、「源氏物語」への旅の、分かりやすい羅針盤とでもいうのか。
平安時代というはるか昔に書かれた物語だが、なかなかどうして、綺麗ごとばかりではない男女の本質が生々しく描かれている。さらに、「今と昔で変わらないこと」そして「今と昔で違うこと」の両方に、感情を揺さぶられる。今も変わらない男の浮気心、そして今とまるで違う女の立場に、現代人の我々は頷いたり眉を顰(ひそ)めたりする。
ただ原文を読むだけでは知ることの出来ない背景を、寂聴先生が解説してくれているのがありがたい。例えば本書にある、「当時、女は『自分』というものがない。政略結婚の道具にされて、結婚してからもただ待つだけ。そんな中で、『出家』は、女が発揮できた唯一の意思表示」という説明は、様々なエピソードの理解にとても役立つ。昔に生きる女性とはいえ、嫉妬もするしイライラするし、理不尽を嘆きもする。抑圧された感情の行き揚が「出家」とは、現代女性には想像しがたい世界である。
世紀の色男光源氏を愛し、愛された女たちが、ことごとく苦しむ様子もまたリアルである。男と女の恋は、「めでたしめでたし」で終わらない。古今東西それだけは、変わることがないのである。
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『寂聴と磨く「源氏力」 全五十四帖一気読み!』 集英社新書 2008年11月14日発売 定価:756円(税込) |
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