青春と読書
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青春と読書
世界中にある大量の核兵器は、現在どうなっているのだろうか。
 二〇〇一年九月一一日の世界貿易セン夕―ビル崩壊事件後、世界は大混乱に陥った。その後の国際的な議論は、○三年からの米軍の無謀なイラク攻撃によって、ブッシュ大統領とネオコンが世界的な批判を浴びる、という点に集中していた。一方で、イラク攻撃と同時に、アメリカが小型核兵器の研究再開に踏み切っ たことは、ほとんど忘れられていたのだ。
 しかし久しぶりに、アメリカ国内の実情を知る機会が訪れた。この本を読むと、日本人が知らない間に、ブツシュ政権の核開発の危険性がここまで進行して、書名通りの「狂気」に至っているのかと、誰しも寒けを覚えるだろう。
 著者は、反核運動で世界とアメリカ市民を熱狂させた医師であり、日本人の多くが放射能や原子力の危険性について、基礎知識の多くを彼女から学んだ。本書の興味深い考察は、アメリカとロシア、中国の軍事的な対立と、アメリカ軍事マフィアの異常な精神構造を浮き彫りにしている点にある。「アメリカは、北朝鮮、イラク、イランの脅威を口実にして、実際には中国・ロシアを狙った攻撃システムを作ろうとしている」とする著者の読みに、九・一一事件後のプーチンや 中国政府の行動の謎が次々と解ける思いがした。
 同時に著者は、日本人がぼうっとしている間に、アメリカの暗い影に包まれる日本が、どのように危険な状況に呑まれているかを、如実に示している。日本で議論が沸騰している劣化ウラン弾の脅威、高レベル放射性廃棄物の末期的な現状、六ケ所村の再処理工場と核兵器製造の危険性についても、詳しい資料を提供している。日本は今年五月に宇宙基本法を成立させ、宇宙の軍事化にも暴走し始めた。ミサイル防衛という無謀な道に入りこむ様を傍観しているメディアヘの重大 な警鐘が聞こえる。

(ひろせ・たかし/作家)
『狂気の核武装大国アメリカ』
集英社新書
2008年7月17日発売
定価:777円(税込)
狂気の核武装大国アメリカ
狂気の核武装大国アメリカ
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